今年のMIPIM(ミピム)の全体テーマは「Mapping World Urbanity」。何かと不動産金融の話題に偏りがちだったMIPIMが、金融危機とその後の混乱を経て、より社会的な課題にも目を向けるようになった。都市化をテーマとしたのもその表れと言えよう。

 「MIPIMをビジネスの場としてだけではなく、長期的な展望に基づいた多様なコンテンツを討議する機会にしたい。近い将来大きな社会問題となる都市化に照準が当たり、異なる背景を持つ人々によって話し合われた意義は大きい」と、主催者である仏ReedMIDEM(リードミデム)のDirector of MIPIM、Ronan Vaspart氏は語る。

 2014年の国連調査によると、世界最大の都市圏である東京を筆頭に、地球上の人口の半分以上にあたる39億人が都市に居住しており、その割合は年々高まっている。MIPIM会場では、こうした都市化の課題として温暖化や天候不順、移民の急増などによる住宅の不足や価格の高騰、その対策としてのテクノロジーの導入などが繰り返し討議された。

 会期初日に行われた基調講演のスピーカーは、20歳の女子大生、Adora Svitakさんが務めた。米国の若者世代の代弁者として「TED」でスピーカーを務めたこともある彼女は、不動産業界のエグゼクティブ層が中心を占めるカンヌの聴衆を前に堂々と語りかけた。

基調講演のスピーカーを務めたAdora Svitakさん(写真:ReedMIDEM)
基調講演のスピーカーを務めたAdora Svitakさん(写真:ReedMIDEM)
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 今日の都市の作り手たちが、高等教育を受け、ビジネスで成功して人生を謳歌する“典型的なミレニアルズ”だけを見ていると指摘。貧しい若者、平均的な若者も含めた若者コミュニティー全体への配慮を忘れれば、「残された者たちからの反撃を受ける」と警告した。

 「コミュニティーを大切にし、多様な人のニーズに応じた都市作りを進めることが重要。多様な若者たちの声を聞き、その才能を活用することが将来への展望を拓く」(Svitakさん)。

オバマ氏の姉も登壇、アフリカに着目


 今回のMIPIMは、約30年の歴史の中で、経済発展が著しいアフリカに初めて着目したものと言えるだろう。基調講演に続いてのパネルディスカッション「Thinkers&Leaders」では、OECD(経済協力開発機構)や大手不動産会社のスピーカーに交じって、独Sauti Kuu FoundationのAuma Obama代表が登壇した。

独Sauti Kuu FoundationのManaging Director、Auma Obama氏(写真:本誌)
独Sauti Kuu FoundationのManaging Director、Auma Obama氏(写真:本誌)
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 米元大統領Barack Obama氏の異母姉である彼女はケニアに生まれ、ドイツで学んだ後に途上国の若者たちを助けるNGOを運営している。ナイロビ郊外で少女の頃を過ごしたという彼女。大都市だけに注目する現在の不動産業界に疑問を呈した後で、自らの体験を振り返った。「大人たちは子供たちの声に耳を傾けようとしないし、聞いてもそれを真剣に受け止めない。しかし、彼らが我々の将来を作るのだ」(Obama氏)。

 続いて、会場を埋めた不動産業界のトップたちに対しては、「プロジェクトを手がけるなら、経済的な利益だけでなく、社会的な利益も考えよう。隣人、そして若者たちが不幸であれば、どうしてそれが成功と言えるのか」と熱弁を振るった。

 展示会場では今回がお披露目となる「Africa Forum」が開設され、ケニアやモーリシャスの大型プロジェクトが模型とともに披露された。世界各地の行政トップを集めた「Mayors' Summit」をはじめ、機関投資家、弁護士、女性参加者といったそれぞれの切り口で様々なミーティングやパーティーも開催され、賑やかなイベントに花を添えた。

篠田香子=フリーランス