近年、旅行市場の成熟と共に、従来型のホテルに飽きた旅行者が個性的なブティックホテルを好むようになった。客室が小さい分割安だがデザイン性が高く、外からも入りやすいカジュアルなレストランやバーを備えるのが特徴で、ミレニアルズを主な対象に質の高いユニークなものが数多く登場している。しかし、MIPIM(ミピム)3日目のパネルディスカッション「Hotels with an urban view: room for innovation」では、こうした流行に対する警告が発せられた。

 地元のカルチャーを取り入れたスタイルで人気を得ているブティックホテルチェーン、The Hoxtonを所有・運営する英Ennismoreの CEO(最高経営責任者) 、Sharan Pasricha氏は、「最近、小さなホテルの多くが、ファッショナブルで“インスタ映え”するデザインに衣替えしている。だが、表層的にはやりのデザインを取り入れても、その流行は長続きしないことが多い。我々はむしろ、トレンディー、クールと評されるデザインは取り入れないようにしている。デザインは機能性とホテルのコンセプトを踏まえて創り上げていくべきだ」と、長期的な視点の重要性を強調した。

 同社が買収したスコットランドの伝統的なゴルフリゾート、グレンイーグルズのホテルは、古式ゆかしい内装をそのままに、ロゴやウェブサイトのデザインをブラッシュアップするにとどめている。

Maison Heler Metzの発表に臨んだフィリップ・スタルク氏(左)   写真:篠田香子
Maison Heler Metzの発表に臨んだフィリップ・スタルク氏(左)   写真:篠田香子
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 MIPIM会場を訪れたデザインの巨匠、Philippe Starck(フィリップ・スタルク)氏も「デザインの目的は楽しい空間を生み出すことで、短期的な流行やトレンドとは無関係だ。重要なのは、モダニティー。それは、過去と未来の優れた点を取り込んで形にしたもの。それが顧客誘致と投資還元につながる」と語った。「ファストファッションのミニスカートみたいな、すぐに廃れるデザインコンセプトに、誰が長期投資できる?」(同氏)。

 ヒルトンの記者会見に出席した同氏は、仏アルザス地方・メッスに自らの設計で建設されるMaison Heler Metzをお披露目した。14階建ての宿泊棟の上に、18世紀の屋敷を再現したユニークなもので、客室数は119。屋上部分の「家」は料飲施設などになる。総投資額は2250万ユーロ(約29億円)。ヒルトンの高級ブティックホテル・ブランドである、クリオ・コレクションの一環として2019年後半に開業する予定だ。

Maison Heler Metzの完成予想図(資料:Hilton Worldwide)
Maison Heler Metzの完成予想図(資料:Hilton Worldwide)
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 クラブメッドの創設者で、今は仏Accor Hotels(アコーホテルズ)傘下のMama Shelterで社長を務める Serge Trigano氏も、スタルク氏を起用した一人。前述のパネルディスカッションで「限られたホテルのスペースをフル活用するために、優れたデザインは必須だ」と語った。ホテル内の料飲施設の内装設計にあたりスタルク氏に白羽の矢を立てたのは、彼のネームバリューのためではなく、エネルギーを生み出すデザイン力ゆえだという。

 同社の料飲部門はホテル内の収益の60%以上を稼ぎ出しており、その結果は上々だ。「シティーホテルだけではなく、今後は新たなコンセプトのリゾートホテルも展開したい」(トリガノ氏)。

篠田香子=フリーランス