チェックシートがあれば現場に入りやすい

――山口県の取り組みを先導した2人にお聞きします。施工状況把握チェックシートの効用をどのように感じられますか。

田村 隆弘氏:土木学会のコンクリート標準示方書は、どうすれば良いコンクリートが打てるかを書いている教科書的な存在です。それだけにかなり分厚い。示方書は読めば勉強になりますが、現場で役に立つかというと疑問です。あの本を現場に通訳するペーパーがあると良いよねというのがきっかけで、チェックシートは生まれました。

 昔は発注者も現場でOJT(職場内訓練)をしていました。若い人を連れて、先輩の背中を見ながら学ぶという機会が多かったと思います。ところが、最近のインハウスエンジニアには、庁舎内で一生懸命仕事をする人が増えて、現場に行く機会は格段に減りました。「わざわざ現場に行って何をするのか」と考える人も少なくないようです。チェックシートを持っていけば、それほど経験がなくても、簡単に現場に入って行けるようになります。

田村 隆弘(たむら・たかひろ)/徳山工業高等専門学校土木建築工学科教授(写真:日経コンストラクション)
田村 隆弘(たむら・たかひろ)/徳山工業高等専門学校土木建築工学科教授(写真:日経コンストラクション)
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二宮 純氏:当初から狙っていたわけではないのですが、チェックシートを使い始めると結果的に現場で活用されるようになりました。もともとは発注者の監督員のために作ったチェックシートでしたが、施工者が下請け会社の作業員への指示に使うことにも非常に有効だったのです。

春日 昭夫氏:山口県のシステムで実践しているのは「基本中の基本」です。けれども、大学でも会社に入っても、そのようなことは誰も教えてくれませんでした。吉田徳次郎先生の時代の「基本を忠実に守れば、良いコンクリートを打てる」という考えを示したという点で、大きな意義があると思います。

 私の会社では、大小合わせて4000橋ぐらいの施工実績がありますが、先輩が造った橋は、コアを抜いてもすごくきれいです。混和剤などない時代で、川砂利の良い骨材を使って、職人がネコ(手押し車)で運び、人力で打っていました。時間を掛けて丁寧に締め固め、基本に忠実に造ったコンクリートは、50年たってコアを抜いても健全で、きれいな青色をしています。

 高度経済成長期に入り、インフラを量産するためにポンプ車が出てきて、混和剤が生まれました。「コンクリートの基本に忠実に」という考え方は次第に忘れられたのですが、ここに来てやっとまた戻ってきたような感覚です。丹精込めて、情熱を持って打てば、良いコンクリートはできます。

二宮 純(にのみや・まこと)/西日本高速道路エンジニアリング中国山口支店長(元山口県土木建築部審議監)(写真:日経コンストラクション)
二宮 純(にのみや・まこと)/西日本高速道路エンジニアリング中国山口支店長(元山口県土木建築部審議監)(写真:日経コンストラクション)
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春日 昭夫(かすが・あきお)/三井住友建設技術本部長(写真:日経コンストラクション)
春日 昭夫(かすが・あきお)/三井住友建設技術本部長(写真:日経コンストラクション)
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※この短期連載は、「新設コンクリート革命」から一部を抜粋したものです。最終回となる第6回は5月23日(火)に掲載します。記事内の所属・肩書きは執筆時点のものです。

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