3月14日まで開催された不動産コンファレンス、MIPIM(ミピム)には、世界中の不動産会社や政府系ファンド、年金基金など不動産投資に関わるプレーヤーが集まった。2万人の参加者のうち約4000人が投資家層だ。このカンヌで話し合われる内容が、世界の不動産市場の今後を方向付けるといっても過言ではない。実際に、それ以外の1年間で聞くよりもはるかに多くのVIPの話を、この4日間で聞くことができた。

 だが記者個人の感想を言えば、正直なところ、今回ほど拍子抜けしたMIPIM取材はない。

 日経不動産マーケット情報が現地取材を開始したのは2009年。リーマンショックの記憶を生々しく感じつつも、来たる欧州通貨危機の影はまだはっきりと見通せなかった頃だ。その後、ドバイ、ギリシャ、キプロスと巡った債務危機はフランスなどの大国に波及する気配を見せ、大規模開発プロジェクトの中止やファンドの解散、売却話などがMIPIM来場者の話題を席巻してきた。カンヌでは、不動産業界がグローバルな政治経済の動きに翻弄される様子を、東京にいるよりもリアルに感じることができた。

 今回のMIPIMでいえば、ロシアと西側諸国が一触即発の様相を見せるウクライナ・クリミア半島の危機が、まさに現在進行形の話題として取り上げられると予想していた。デフォルト目前となったウクライナ政府国債の償還問題にとどまらず、ロシア産ガス供給の停滞、通貨相場の不安定化などで、欧州経済への広範な影響が予想されるからだ。

 ウクライナばかりではない。米国のテーパリング(金融緩和の段階的縮小)を背景に、新興国から資金を引き揚げる動きが世界的に広がる。すでにアルゼンチンで債務危機が再燃。トルコでは宗教政党と世俗派の対立が先鋭化し、大規模デモで死者が出ている。中国、韓国を筆頭にアジア経済も減速気味。新興国への輸出をテコに回復してきた先進国経済への影響は避けられない。

 とこが、いざ会場に身を置いてみると、そうした懸念はほとんど人々の話題に上らない。むしろ、南仏のぽかぽか陽気に皆がのぼせたかのように、のんきなムードが漂いっぱなしの4日間だった。

重債務国での投資が復活

 ジャーナリストの観点からは面白みに欠ける取材だったといえばそれまでだが、冷静に考えてみると、この静けさにも理由がある。例えば、足元の数字は着実に改善している。米調査会社のReal Capital Analyticsによると、欧州の投資用不動産取引高は2013年、前年比で17%増の1778億ユーロ(約25兆円)。第4四半期に限っていえば、2007年以来となる52%の増加率を記録した。

 さらに、ユーロ危機の震源となった重債務国でも、市況回復の兆しが見えてきた。米CBREの報告によると、アイルランドの不動産取引高は2013年、前年比3倍を記録した。日本の整理回収機構に相当するNAMA(国立資産管理庁)が大量の不良債権を入札にかけ、外資系ファンドが群がっている。

 英サヴィルズによれば、スペインの取引高も同様に前年比3倍に達したという。ディスカウントされ投資妙味のある都心不動産が、外資プレーヤーの格好のターゲットとなりつつあるのだ。米ラサール インベストメント マネージメントによると、マドリッド、バルセロナではオフィスビル価格が2007年比で6割も下落した。高失業率などファンダメンタルズの問題が解決しないうちは地域経済の先行きを楽観できないが、少なくとも今現在、投資家にとっては最も魅力あるマーケットの一つとなりつつある。

本間 純