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中国不動産マネーの奔流、行き着く先は奇抜な建築群

2008/01/11

 中国の不動産市場の過熱が話題になって久しい。年率10%超の経済成長で都市住民の財布は膨らみ、溢れる金が住宅投資に向かっている。オフィスビルや商業施設の建設も相次ぎ、街はさながらクレーンの大群に包囲されたような状況だ。地元企業は自らの存在を誇示するかのように、奇抜なデザインのビルを競って開発している。

 筆者は2007年秋、北京を約6年ぶりに再訪して、現地の不動産事情を見聞する機会を得た。取材の結果は近く記事にまとめ、日経不動産マーケット情報のウェブサイトに掲載する予定だが、本稿では旅のなかで出会った印象的な建物やプロジェクトを写真で紹介しよう。

 まずは北京市中心部のCCTV(中国中央電視台)タワーから。公営テレビ局のオフィス、スタジオ兼用ビルだ。傾いたタワーは今後上層階のブリッジで接続され、アルファベットのAの形になるという。最近は旅行誌などにも取り上げられることがあるので、すでに目にした読者が多いかもしれない。

CCTVタワー。取材時は外装パネルの取り付けが始まったばかりだった。内部のエレベータは傾いてはいないそうだ。
CCTVタワー。取材時は外装パネルの取り付けが始まったばかりだった。内部のエレベータは傾いてはいないそうだ。

 次は北京中心部から8kmほど離れた、オリンピック村にある建物を紹介する。5棟のビルが寝そべった龍の形に並んでいる。工事中の左の建物は、龍の首を模して上部がくねった形になる。開発許可を巡っては、政府とデベロッパーとの金銭スキャンダルも噂されているそうだ。

“龍のビル”(名称不明)。あいにく撮影することができなかったが、現地には完成予想図のパネルも掲示されていた。詳細をご存じの読者はお知らせ頂きたい。
“龍のビル”(名称不明)。あいにく撮影することができなかったが、現地には完成予想図のパネルも掲示されていた。詳細をご存じの読者はお知らせ頂きたい。

 “龍のビル”の真横には急ピッチで建設が進む、通称バーズ・ネスト(鳥の巣)がある。北京オリンピックのメーン会場となる建物だ。設計はスイスのヘルツォーク・アンド・ド・ムーロンと中国建築設計研究院が手がけた。

北京オリンピックのメーンスタジアム。表面を覆う網状の構造体は、実際に目にすると写真以上の迫力がある。竣工前からすでに北京の観光名所になっているが、関係者以外近づくことはできない。
北京オリンピックのメーンスタジアム。表面を覆う網状の構造体は、実際に目にすると写真以上の迫力がある。竣工前からすでに北京の観光名所になっているが、関係者以外近づくことはできない。

 オリンピック村周辺には大規模な公園が整備され、内外のデベロッパーが急ピッチで住宅開発を進めている。この付近のマンション分譲価格は2006年当時の約2倍になったという。持ち家志向が強い中国において、住宅ブームは当面続きそうだ。

オリンピック公園横の住宅群。大都市では半ば投資目的で高級住宅を購入する人が多く、短期転売狙いの買い主も少なくない。誰が住む訳でもなく、ただ値上がりを待つだけの住宅がそこら中にあるという話だ。
オリンピック公園横の住宅群。大都市では半ば投資目的で高級住宅を購入する人が多く、短期転売狙いの買い主も少なくない。誰が住む訳でもなく、ただ値上がりを待つだけの住宅がそこら中にあるという話だ。

 北京や上海では、土地を取得した地元資本が、資金調達計画やテナント誘致の見通しを詰めないまま、後先を考えずに開発を始めてしまう例が後を絶たない。広大な中国においても都市中心部の土地は人気が高く、土地さえ確保すればなんとかなるという神話がまだ生きている。

 前回の訪問時にも、建築途中で放棄された高層マンションの残骸を見ることがあった。当時はITバブル崩壊の影響と説明されたが、今回も同様の話をあちこちで耳にしたことを考えると、中国の不動産市場では一般的な現象なのだろうか。

 政府は建築がストップしたこうした建物が、世界からの訪問客に醜態をさらさないように躍起だ。オリンピック開催までに竣工が見込めない建物には、撤去命令が下っている。未竣工物件を外資系企業に売却して資金を回収できたのは、一部の幸運なデベロッパーだ。

 地下鉄西直門(シージメン)駅の真上にあるオフィス、店舗複合ビル。商業施設のリーシング・ノウハウがない地元デベロッパーは店舗フロア7万m2をしばらく空き状態で放置していたが、シンガポールのキャピタランドが取得して2007年10月に開業した。
 地下鉄西直門(シージメン)駅の真上にあるオフィス、店舗複合ビル。商業施設のリーシング・ノウハウがない地元デベロッパーは店舗フロア7万m2をしばらく空き状態で放置していたが、シンガポールのキャピタランドが取得して2007年10月に開業した。

 不動産会社のIPO(新規株式公開)は何人もの億万長者を生んでいる。中国経済のポテンシャルは高く、当面成長が続くという見方が有力だが、一部に顕在化したバブルの兆候はかつての日本を思わせる。政府は遊休地への課税強化などで地価を抑制する考えだが、オリンピック後に多少の調整局面が来る展開も予想しておいた方がよさそうだ。

 1月9日付の日本経済新聞朝刊によると、2軒目のマンション購入に対する融資規制が2007年9月に公布されたのを機に、深センなどの都市で住宅価格が下落しはじめたという。米国のサブプライムローン問題に続いて、中国発の不動産ショックがやって来ないことを祈ろう。

 最後に、階数表示にまつわるユニークな事情を紹介する。四は「死」に通じる発音を持つため、表向きは4階、14階などを持たないビルが多い。取材の際は何度も実際の階数を聞き直して確認する羽目になった。

 エレベータの階数ボタンにも4階はない。以前は日本でも集合住宅の階数表示に4を使わない習慣があったそうだ。
 エレベータの階数ボタンにも4階はない。以前は日本でも集合住宅の階数表示に4を使わない習慣があったそうだ。


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