市販の小型全天球カメラを使って現場を高精度に3D計測するシステムを、U’s Factory(東京・港区)と岩根研究所(札幌市)が開発した。その誤差はわずか数ミリのオーダーだ。既に東京のある地下鉄駅構内の計測に使用したほか、近く市販も予定している。

 リコーの全天球カメラ「THETA」は、シャッターを1回切るだけで、カメラの周囲360°を静止画や動画で撮影できるユニークなカメラだ。

 小型・軽量なので、ダウンライトなどの穴から天井裏の設備を撮影したり、ドローンに搭載して空撮に使ったりと、建設業界でも便利に使われている。昨年11月には、解像度を従来の約3倍となる1400万画素に高めた上位機種「THETA S」が発売された。価格はリコーの直販サイトで4万2800(税込)だ。

全天球カメラ「THETA S」の表と裏。2つのレンズで周囲360°の全天全周を一度に撮影する(写真:リコー)
全天球カメラ「THETA S」の表と裏。2つのレンズで周囲360°の全天全周を一度に撮影する(写真:リコー)
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THETA Sの採用で大幅に軽量化

 この「THETA S」を使って高精度の3次元計測システムを早くも開発したのが、U’s Factory(ユーズファクトリ)だ。全天球カメラで建物内外を撮影し、3Dモデル化を行う「Robot Eye Walker 4D」というシステムである。

 全天球カメラを持って建物の内外を歩き回って撮影した動画から静止画を取り出し、パソコンで解析して3D情報付きの画像にするというものだ。

 同社はこれまでも、同様のシステムを使って改修工事の現場などの計測を行ってきた(関連記事)。

 ただ、従来のシステムは使用するカメラは大型で、画像処理用のノートパソコンも持ち歩かなければいけないため、計測時にはかなりの重装備になった。

 そこで、U’s Factory代表取締役社長の上嶋泰史氏は、装備を軽量化するため、「THETA S」に着目した。「THETA Sの画素数は約1400万と、これまで使ってきたカメラに匹敵するくらいある」と上嶋氏は語る。

●従来の「Robot Eye Walker 4D」の作業イメージ

従来のシステムによる計測風景。カメラが大きく、パソコンも持ち歩く必要があったためかなりの重装備だった(写真:U’s Factory)
従来のシステムによる計測風景。カメラが大きく、パソコンも持ち歩く必要があったためかなりの重装備だった(写真:U’s Factory)
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パソコンで解析し、3D座標が付加された画像のトレース作業(資料:U’s Factory)
パソコンで解析し、3D座標が付加された画像のトレース作業(資料:U’s Factory)
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画像のトレースにより作成されたBIMモデル(資料:U’s Factory)
画像のトレースにより作成されたBIMモデル(資料:U’s Factory)
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 その後は持ち前の行動力で、開発は一気に進んだ。「THETA S」を開発したリコーや写真計測の技術を持つ岩根研究所の技術陣とコンタクトをとり、既存のシステムをあっという間に改良してしまったのだ。

 以前のカメラは重さが約3kgもあったが、THETA Sはわずか125gだ。また撮影した画像を記録するノートパソコンも必要なくなったため、計測用の機器は非常にスリムになった。

スリムになった新システム。自立するポールの先端にTHETA Sが取り付けられている(写真:家入龍太)
スリムになった新システム。自立するポールの先端にTHETA Sが取り付けられている(写真:家入龍太)
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 しかし、性能的にはむしろアップした。「THETA S」で撮影できる写真の解像度は従来のカメラとほぼ同じであるのに加えて、従来は手持ちカメラの動画の画像で計測していたのに対し、今回は三脚で固定したカメラで撮影した静止画の画像を使うからだ。

 さらにこのシステムでは水平3方向、垂直1方向の3本のレーザー距離計も使うことで、画像を高精度に補正することができる。4万円前後で手に入る全天球カメラを使った計測手法であるにもかかわらず、精度は±5mm程度と高い。

水平3方向、垂直1方向のレーザー距離計(左)。壁面のレーザー光。位置を拾いやすくするため四角の付せんを張っておく(写真:家入龍太)
水平3方向、垂直1方向のレーザー距離計(左)。壁面のレーザー光。位置を拾いやすくするため四角の付せんを張っておく(写真:家入龍太)
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