「地すべり性崩壊」とは何か

 今回の災害発生現場で、ゲレンデ全体が雪をかぶったままずり落ちてきたのであれば、恐らく「地すべり」に該当しただろう。実際に動いたのは山腹の崩壊した部分の土砂だけで、ゲレンデは言わば滑り台の役割を果たしたにすぎない。

 問題は、山腹で起こった「地すべり性崩壊」の解釈だった。土木用語辞典ではあまり見かけない言葉だ。県によると、「地すべりのようにゆっくり崩壊したのではないが、崩壊の広がりや深さは地すべりのような傾向がある」現象。念のため土木研究所の雪崩・地すべり研究センターに問い合わせると、「一般的な斜面崩壊に比べて面積や深さが大規模。斜面崩壊と地すべりの中間のような現象」と、ほぼ同じ答えが返ってきた。これも地すべりそのものではない。

 ここまで読まれて、「言葉のことなどどうでもよいではないか」と思われた読者もいるかもしれない。ただ、筆者は大学では建設と無関係の学科にいて、一般市民代表のつもりで日経コンストラクションの記者をしている。「土木工事の主体である公共工事は本来、一般社会のための工事なのだから、土木界は一般社会でもっと正しく理解されてほしい」という思いが人一倍強いのである。

 このコラムは、日経コンストラクションのウェブサイトに会員として登録していない方でも読める設定になっている。今後、土木関係者が土砂災害を自ら「地すべり」と説明した場合にどのような意味を込めているかを直ちに理解する一般市民が、一人でも多くなるよう願っている。

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