一体、誰の責任なのか──。東日本大震災で立体駐車場の車路スロープが崩落し、8人が死傷したコストコ多摩境店事故。構造設計者の無罪判決を受けて実施した異例の再捜査の末、東京地方検察庁は7月に嫌疑不十分で設計の統括責任者ら3人を不起訴とした。こうしたなか、設計者と施工者を巻き込んだ民事訴訟が継続していることが取材で明らかになった。設計変更に伴う複雑な設計体制、設計者と施工者、発注者間での不十分な情報の受け渡しなど、トラブルの原因を探ると建築界が抱える問題点が浮かび上がってくる。刑事・民事の訴訟過程で判明した事実をもとに、事故の深層に迫る。
2001年 | |
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4月ごろ | コストコ社が米設計会社と多摩境店の建築設計・監理業務委託契約を締結 |
6月ごろ | 米設計会社が現地設計事務所として意匠設計事務所(東京都渋谷区)と設計・工事監理業務委託契約を締結。意匠設計事務所は構造設計などを構造設計事務所(東京都豊島区)に委託 |
12月初旬 | コストコ社が高木直喜建築事務所に構造設計の変更を依頼 |
12月13日 | 意匠設計事務所が東京都町田市に建築確認申請 |
12月21日 | コストコ社が意匠設計事務所に多摩境店の構造を変更すること告げる |
2002年 | |
1月8日 | 町田市が確認済み証を交付。着工予定は1月15日、工事完了予定は6月30日 |
1月9日 | コストコ社が高木事務所と意匠設計事務所、構造設計事務所を引き合わせて設計変更を伝える |
1月25日 | 高木事務所が構造計算をやり直し、構造設計事務所が構造図を描いて、意匠設計事務所が町田市に計画変更確認を申請 |
2月7日 | 町田市が計画変更の確認済み証を交付 |
2月 | 着工 |
8月 | 竣工 |
9月 | 店舗開店 |
2011年 | |
3月11日 | 東日本大震災で町田市が震度5弱~5強の地震に見舞われる。コストコ多摩境店のスロープが崩落。8人が死傷 |
2013年 | |
3月 | 警視庁が高木直喜建築士ら一級建築士4人を、業務上過失致死傷の疑いで書類送検 |
12月 | 東京地方検察庁立川支部が高木建築士を業務上過失致死傷罪で在宅起訴。書類送検されていた他の3人の一級建築士は不起訴 |
2014年 | |
8月 | 欧州保険会社が東京地裁に施工者の大林組と設計事務所3社を提訴(民事訴訟) |
9月 | 米国保険会社が高木事務所を提訴(民事訴訟) |
2016年 | |
2月 | 東京地裁立川支部が高木建築士に対して禁錮8カ月、執行猶予2年の判決 |
4月 | 米国保険会社が大林組と設計事務所2社を提訴(民事訴訟) |
10月 | 東京高等裁判所が一審判決を覆し、高木建築士に無罪判決 |
11月 | 東京地検が事故について再捜査を開始 |
2017年 | |
7月 | 東京地検が嫌疑不十分で設計の統括責任者ら3人を不起訴 |
目次
- 争いの場は民事訴訟に
設計・施工者に10億円超を請求 - 事故はなぜ起こったか
性急な設計変更がトラブル招く - 無罪判決の建築士の証言
「私はスケープゴートにされた」 - 建築訴訟から学ぶ
職域明示して契約書で身を守れ