次々に偽装が発覚している建築界。古い話で恐縮だが、我が家でも1999年にマンションの内装をリフォームした際、“偽装事件”に巻き込まれてしまった。契約と異なる衝撃音性能のフローリングが張られてしまったのだ。9年前を振り返ってみる。

契約上はL-45を張ることに

 当時、住んでいたのは1985年に竣工したマンション。床はすべてじゅうたん張りで、汚れがかなり目立っていた。特に台所では染みた油が固まって、弾力がまったくない状態だった。リビングを広げるなど間取りを変えたかったこともあり、99年の年明け早々、リフォームして床をフローリングに変えることにした。

 施工者を選ぶに当たって、雑誌で情報を収集した。名の通った数社から選んだのは、提案内容と施工費のバランスが取れていた会社だ。コーディネーターを置き、小さな工事でも専門的に説明できる体制を整えていた。例えば、幅木。白色の樹脂製にするつもりだったが、数ある製品のなかからコーディネーターが選んだのは、やや青白い製品だった。薄いナチュラル色のフローリングと薄い黄色の壁に映えるのだという。こうした説明には感心したものだ。財閥系の大手だったので、すっかり安心しきっていた。

 フローリング選びで欠かせないのが衝撃音性能だ。集合住宅なので、スプーンを床に落とさないなど、常に階下への配慮が必要になる。衝撃音性能はJISが規定しており、当時は一般に、性能に応じてL-40からL-55まで4種類の製品が用意されていた。本来なら最も高性能のL-40を施工すべきだが、予算が限られていたので、ワンランク下のL-45を選んだ。当時は新築マンションでもL-45の採用が多かった。

ダンボールの「50」ってなによ?

 1月末に施工者と契約を交わし、さっそく工事に入った。住みながらのリフォームだったので、毎晩、帰宅すると工事の進捗がよく把握できた。じゅうたんがはがされ、浮き床がむき出しになっていく――。施工現場を確認し、感慨にふけりながら納戸に敷いたふとんにもぐりこむ生活が続いた。

 そんなある夜、“事件”が発覚した。

 帰宅して室内をのぞくと、台所の部分のみフローリングが張られていた。リビングはまだ浮き床がむき出しになっている。壁際に積まれたフローリング部材の入ったダンボールをぼんやり眺めていたその瞬間、ふと疑問がわいてきた。

床に置かれ、梱包されているフローリング部材。印字されている「ダイレクトエクセル50」の「50」の意味は? (写真:KEN-Platz)
床に置かれ、梱包されているフローリング部材。印字されている「ダイレクトエクセル50」の「50」の意味は? (写真:KEN-Platz)

 ダイレクトエクセル50。

 ダンボールには、こう印字してある。「DFFE-501U」の印字もある。「50」という数字を見てピンときたのだ。すぐさまパソコンの電源を入れ、この製品をインターネットで検索してみた。すると、永大産業の製品であることがすぐに判明する。そして、恐る恐る仕様を見てみる。そこには…。

 はっきり、L-50と書かれていた。L-45よりも性能がワンランク低く、部材単価も安い。しかし、工事の依頼先は業界を代表する事業者だ。そんな基本的な間違いを起こすことがありえるのか……。

 ショックを抑え、あれこれ考えてみた。型番の数字は等級を表すことがあるということくらいプロなら知っているだろうし、「50」の文字は大きく印字されている。うっかりミスには思えなかった。

 仮に悪意がないとしても問題だ。フローリングの型番は裏面に印字されているものの、施工してダンボールを処分してしまえば、実際にどんな製品が使われたのかを事実上、確認できなくなる。やはり、重大な問題ではないのか。

 施工者に対して、事実を確認し報告を求めるファックスを、夜中のうちに送っておいた。

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