日本の書店ではBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)関連の書籍は非常に少ない。このような状況の中、私はBIMの入門書の出版に挑んだ。書籍の執筆過程で悩んだのは「どこまでがBIMに関連する内容なのか」ということだ。悩んだ結果、省エネ技術やシステムについての話題も、BIMとの関連性を指摘しつつ盛り込むことにした。そこで見えてきたのが、BIMが進化する方向性だった。

 今回私が執筆した書籍は『図解入門よくわかる最新BIMの基本と仕組み』(秀和システム)だ。この連載コラムのエッセンスも生かしながら、初心者から既にBIMを活用している実務者、そして経営者まで幅広い層に向けて、日本の建設業界におけるBIMの現状と未来についての全体像を理解してもらえるように心掛けたつもりだ。

 BIMの情報となると、ケンプラッツの記事で取り上げたニュースや話題も欠かせない。例えば日本国内のBIMユーザーの動向を見るなら、2010年に日経BPコンサルティングとケンプラッツが発行した「BIM活用実態調査レポート」の調査結果も貴重なデータだ。

 執筆はBIMソフトの設計、施工での活用といった中心的な話題から、徐々に周辺の話題へと進んでいった。その過程で生じた「どこまでがBIMに関連する内容なのか」という悩みを通じて、私なりにBIMの進化の方向性が見えてきた。また、建設会社においての「BIMによる経営戦略」の重要性もいっそう強く認識した。今回はこれらのことを書いてみたいと思う。

BEMSやHEMSとBIMの関係

例えば、3次元の街並みや建物の中で人やクルマの動きや音を表現するバーチャルリアリティー(VR)や、既存の建物の3次元形状を計測する3Dレーザースキャナーなどは、BIMとの連携が分かりやすい。

 しかし、BEMS(ビルエネルギー管理システム)やHEMS(住宅エネルギー管理システム)、スマートハウスとなるとどうだろうか。東日本大震災以来、節電やピーク電力の削減のため、これらのシステムは新製品が各社から続々と発売されているが、BIMとの関係をうたった製品はほとんどない。

 にもかかわらず、これらのシステムをBIM関連技術として大きく取り上げたのは、2011年12月21日に公開した本コラム「住宅と設備が連係!各社のスマートハウス開発戦略」の影響が大きかった。この記事を書くうちにスマートハウスの性能を最大限に高めるためには、設備面だけでなく住宅自体の省エネ性能の向上が不可欠であり、そこにBIMによるエネルギー解析や設備設計を取り入れることが有効と感じたからだ。

BEMSとHEMSの概念図の例。ベンダーの資料を見てもBIMという文字は入っていなかった(資料:アイ・ビー・テクノス)
BEMSとHEMSの概念図の例。ベンダーの資料を見てもBIMという文字は入っていなかった(資料:アイ・ビー・テクノス)

 BEMSやHEMS、スマートハウスは建物のエネルギー消費を最適化するのが目標だ。これらのシステムは設備系の技術がメーンではあるものの、建物にも自然光や自然通風を生かしたパッシブな省エネ性能を備えていることにより、さらに効果が高まる。

 まだ設備メーカー側はBIMとの連携を強くは意識をしていないかもしれないが、いずれBEMSやHEMS、スマートハウスの性能を最大限に発揮させるために、建築設計者もこれらの設備系システムをBIMの中に組み込み、解析やシミュレーションによって建物と設備の性能を最適にマッチングさせる設計手法の時代が来ると判断し、BIMと関連する技術の中にBEMSなどを入れることにした。