明石達生(あかし・たつお) 1961年生まれ。84年東京大学工学部都市工学科卒業後、建設省(現国土交通省)入省。横浜市役所地区計画担当課長、国土技術政策総合研究所都市計画研究室長などを経て、2014年に東京都市大学都市生活学部教授に就任し、現在に至る。(写真=都築雅人)
明石達生(あかし・たつお) 1961年生まれ。84年東京大学工学部都市工学科卒業後、建設省(現国土交通省)入省。横浜市役所地区計画担当課長、国土技術政策総合研究所都市計画研究室長などを経て、2014年に東京都市大学都市生活学部教授に就任し、現在に至る。(写真=都築雅人)

 国は2014年8月に都市再生特別措置法の改正案を施行し、市町村に対して「立地適正化計画」を作成することを促している。これによって、「多極ネットワーク型コンパクトシティ」をよりどころに、集約型の都市構造をつくっていくのだという社会的なコンセンサスを取るところにまで達したと考えている。このエポックとなる法制度ができた2014年を転機に、コンパクトシティについては、新たな段階に踏み込む時期が来ている。

 これまでは、コンパクト化を推進するために「エコシティの実現によって、CO2排出を削減できる」などと説明することが多かった。土地利用の面からもコンパクト化でエコになると言ってきた。しかし、それだけで済む時代は過ぎたのではないか。

人や自転車が主役の生活道路を基本に整備する

 CO2排出だけを強調してしまうと、例えばエコな自動車を実現すれば、変わらずにクルマ社会のままでいいという見方にとどまりかねない。むしろ、環境配慮も重視しながら、日本の都市をコンパクトにしていくなかで、どんな新しい価値を生み出せるのか。そのために、市街地を整備する側としては何ができるのか。目標として共有できるイメージを打ち立てる必要がある。

 私自身は具体的には、通学路に使う道、犬と散歩する道、ジョギングをする道など、自動車を主役にせずに歩いて楽しめる道を整備することが、クオリティー・オブ・ライフをもう一段高めるためのベースになると考えている。

 面積当たりの総延長(長さ)や幅員に整備水準の目標を設け、人々の暮らしの基盤になる歩行者ネットワークを構築する。一例としては、300mピッチで生活道路を入れていき、平方km当たり6kmを確保する、といった数字を掲げて住宅地を改めて整備する。そうした目標を持ち、コンパクトシティ形成を次の段階に進める必要がある。

 その点で現在、うまく対応できていない1つが自転車だ。幹線街路では歩道から追い出されて車道を走っているが、安全なはずはない。新たな生活道路は、自転車のほかに、時速20km程度で走る超小型モビリティのような今後の技術革新によって生まれるヒューマンスケールの乗り物の利用も前提に整備していく必要がある。乗り物が変われば当然、市街地のつくり方も変わる。超小型モビリティは産業の面でも新たな需要の創造につながるので、長期的な視野として併せ持っておきたい。

 自動車を主役とはしない生活道路によって様々なサービス機能を結び付けていき、コンパクトで暮らしやすい街とする。そうやって、旧来のような広い道路をつくっていくばかりの鳥瞰的な都市計画から、人間の目線で街を見る計画に移行することが大切だ。

 そうしたときに、一番避けなければならないのは、「ゲーテッドコミュニティ」(※)の発想だと考えている。これは社会の分断を象徴するものだ。例えば、子どもたちが安全に過ごすためには「地域の目」が欠かせない。ところが、大人が子どもに声を掛けると犯罪であるかのような扱いを受ける場合がある。これが行きすぎると安全を求めるゲーテッドコミュニティに類する方法に行き着いてしまう。そうならないよう、地域力やソーシャルキャピタル(社会関係資本)をはぐくむことが課題になると考えている。

 今後、退職した団塊世代の人々が大量に住宅地に「帰ってくる」。そうした人たちの暮らしや生きがい、そのための場所づくりと合わせて地域の力を復活させる視点を持つことも重要になる。