
建物の省エネ設計を行うとき、吹き出し口から出た空気が室内空間をどのような経路を通って、排気口までたどり着くか、そして室内の温度分布はどうなるかを3次元的に求めることが重要だ。
アドバンスドナレッジ研究所が開発した熱流体解析ソフト「FlowDesigner」は、この複雑な解析を一般の設計者でも簡単かつスピーディーに行えるようにした。三菱電機情報ネットワーク(株)では、2004年からFlowDesignerの販売を始め、3人の社員がこのソフトを使って2008年4月から本格的な受託解析業務をスタートさせた。
例えば、ある工場のケースでは、夏の間、空調が効きにくいという問題があった。そこで、現状の空調設備による工場内の空気の流れや温度分布をFlowDesignerで解析して原因を探ったり、シミュレーションによって空調設備の改善策を提案したりといったコンサルティングを行った。
また、ある新設の9階建てビルのケースでは、春や秋の中間期に自然換気を活用して省エネを図るための解析を受託した。ビルの外壁や内部の壁、階段室などの仕切りを3次元モデルで忠実に再現し、階をまたがる空気の流れと温度分布などを解析したのだ。
最近は省エネ対策として、コンピューターのサーバールームやデータセンター内の空気の流れや温度分布を解析する業務も増えている。
「サーバールームなどの空調は、床面から冷気を吹き出すタイプのものが多く、床のパネルを外すだけで吹き出しを自由に設定できます。室内の温度分布の差を小さくするためには、床面のどの部分に吹き出し口を設けると効果的かをFlowDesignerでの解析結果に基づいて決めたりしています」と、三菱電機情報ネットワーク(株)エンジニアリングシステム事業部技術システム第一部 IT応用技術課の清水剛さんは説明する。
このような熱流体解析を行うためのソフトは、以前からあったものの研究者や解析技術者などエキスパートだけが使うことを想定して作られていた。そのため入力データの作成や解析計算、そして結果のとりまとめに多くの手間と時間がかかっていた。
FlowDesignerが登場したことで、熱流体解析を設計者自身が簡単に行えるようになり、解析結果を設計に反映することで、建物や設備の設計段階で完成後の空調効果を精度よく予測し、最適な省エネ設計を追求する道が開かれた。
「以前は1カ月かかっていた解析業務が1週間でできるようになったくらいです。入力データとなる3次元モデルも、専用のモデラー機能を使うと簡単なモデルなら10分くらい。9階建てのビルの壁や天井、床などすべての仕切り部を丸ごとモデル化しても半日から1日程度でできます」と同社IT応用技術課担当課長の三浦哲朗さんは言う。
つまり、以前はスーパーコンピューターのような大型計算機でないとできなかったような解析が、普通のノートパソコンでも手軽にできるようになったのだ。昔の解析業務の大変さを知っている人ほど、FlowDesignerに対して驚きを隠さないという。

「4年前にFlowDesignerを初めて見たとき、ほれ込んでしまいました。普通の設計者でも簡単に使えて、計算時間もとても短く、精度もよかったからです」(三浦さん)。また、使い方も簡単で1日程度の講習を行った後は、実際に業務を行いながらマスターできるほどだという。
解析するときには空間を細かい直方体で「メッシュ」という微小な空間に分ける。FlowDesignerは500万メッシュまで対応できるため、前述のように9階建てのビルを丸ごとモデル化して解析することができるのだ。
同社では計測装置を使って、温度分布や気流などの解析結果が実際によく合っていることを検証し、確かめた。そのため、受託解析の結果を顧客に説明する際も、自信をもって話せるという。
三菱電機の子会社であるため、電気機器類の解析業務も行っている。「機器の内部を効果的に冷却するために、ケースの開口部や冷却ファンの位置、発熱部品を冷やすためのヒートシンクの形や羽根の取り付けピッチなど、細かい解析にもFlowDesignerを使っています」と、三浦さんは付け加えた。
FlowDesignerは2008年12月25日にバージョン5.1が発売され、最上位のエンタープライズ版には吹き出し口などの最適な位置を自動的に求められる「逆解析機能」も搭載された。この機能を使うと、さらに気流解析業務の効率化が期待できる。
このほか、日射解析機能もある。「建物の緯度、経度と解析の始まり、終わりの日時を入力すると、太陽の位置を自動的に計算して、日射による室内の温度上昇を計算してくれます」と三浦さん。太陽光による熱負荷にも対応できるので、建物の省エネ設計には使いやすい。
熱流体解析はまだまだニッチな業務だ。そのため、CADソフトのようにユーザー同士で使い方を教え合ったり、活用アイデアなどの情報交換を行ったりする機会はまだ、それほど多くないと思われがちだ。
「FlowDesignerは開発元のアドバンスドナレッジ研究所のサポートセンターがしっかりしているので、わからないことを相談すると大抵、解決できます。また、同社では最近、FlowDesignerユーザーフォーラムを開催しており、2008年10月の第2回目には全国から集まった約100人のユーザーで会場は超満員でした。このような場で、先進ユーザーの活用事例を学び、ユーザー同士が交流する機会もあります」(三浦さん)と、ニッチな業務にもかかわらず、ユーザーが孤立することも少ないのも、このソフトを使うメリットであるようだ。
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