金融商品取引法の主要部分が昨年9月から施行となり、金融サイドからの規制が不動産証券化にも及んでいる。このたび日経BP社では「基礎から学ぶ 不動産実務と金融商品取引法」(田辺信之著/田中俊平監修)を発刊した。金融商品取引法が不動産ビジネスに与える影響を同書籍から抜粋し、5回にわたって解説する。


 不動産証券化の手法が普及するにつれて、不動産を取引するときに、実物不動産のままで売買するのではなく、売り主が実物不動産を信託受益権に変えて、その受益権を買い主に売却する方法が幅広く用いられるようになりました。

 不動産信託受益権を売買する当事者としては、不動産信託受益権という形式を用いてはいるものの、基本的には不動産の取引をしているという認識であることが多いものと思います。もちろん、実物不動産と不動産信託受益権とでは法的性質は違うのですが、少なくとも金融商品取引法(金商法)施行前は、不動産信託受益権の取引は実務的には実物不動産の取引に近いものとして取り扱われていました。

 ところが、金商法によって信託受益権は「有価証券」とみなされ、不動産信託受益権の売買は実物不動産の売買ではなく、有価証券の売買(または発行)となりました。このため、不動産信託受益権の売買の法的な性質は、大きく変わりました。例えば、実物不動産の所有者が自らを受益者として信託を設定し、その信託受益権を売却することは、有価証券である信託受益権の「発行」となります。そして、その信託受益権の買い主を勧誘することは、信託受益権の「募集」や「私募」になります。また、だれか別の人がその信託受益権の買い主を探してくることは、信託受益権の媒介(仲介)ではなく、「募集の取扱い」に該当することになりました。

 不動産信託受益権の売買を、実物不動産の売買の代替手段だと認識している売買の当事者、仲介者にとっては、「有価証券」を「発行」したり「募集」したり、さらには「募集の取扱い」をしているという実感はあまりないかもしれません。ですが、信託受益権が有価証券とみなされることによって、法律構成はこのように大きく変わってしまったのです。

 「不動産と金融の融合」とか「不動産の金融商品化」とか言われますが、金商法施行前まではどちらかといえば経済的事象を指していた面が強かったように思います。しかし、金商法によって、法的な側面においても、金融的なものの考え方が不動産取引にこれまで以上に強く反映されるようになってきたと言えるのではないでしょうか。


■次回以降の内容
第3回 信託受益権の「みなし有価証券」化による影響
第4回 アセットマネジメントへの影響
第5回 プロパティマネジメントへの影響

■前回までの内容
第1回 投資市場のプレーヤーへの影響


この連載は、新刊書籍「基礎から学ぶ 不動産実務と金融商品取引法」(田辺信之著/田中俊平監修)のなかから、著者の了解を得て抜粋または一部を編集したものです。書籍に関する情報は、下記のサイトをご覧ください。