去る7月、ペイントハウスの「ペンタくん多摩センター店」が売却された。「リフォーム前とリフォーム後の実物の家に、見て触れて確かめられる」をコンセプトに、11棟の家を展示したガラス張りの巨大なビルは、設計に隈研吾氏がかかわり、施工を鹿島が担当した。地上8階地下2階建て、延べ床面積3万3800m2、2003年の竣工だ。オープンしたころ、柔道の田村亮子(現、谷亮子)選手を起用したCMが、テレビから繰り返し流れていたのを思い出す。

 当時の記事は次のように伝えている。『ペイントハウスでは、多摩センター店を新しいビジネスモデル構築のための中核店と位置付けており、開店を機に無店舗販売から有店舗販売に転換する方針だ。(中略)多摩センター店への総投資金額は約150億円。オープン後の6カ月間で80億円の受注を見込んでいる』(KEN-Platz、2003年2月24日)。「日経アーキテクチュア」2003年3月31日号のインタビューでは、社長だった星野初太郎氏が「この取り組みに対する答えは、半年もすれば出るだろう」と話していた。

 そして答えは出た。7月初旬の土曜日、店に足を運んでみると、人影がほとんどない。30分ほど滞在する間にみかけた客は3組。完成当初、にぎわっていたのがうそのようだ。「住まいのデパート」の発想は斬新で大胆だったが、多大な投資に見合う需要がなかったということだろう。多摩センターという集合住宅の多いニュータウンに、戸建て住宅のリフォームをPRする店舗を設けた立地戦略にも無理があったのか。不動産投資のリスクを考えずにはいられない。

 ペンタくん多摩センター店の2006年2月末時点の簿価は106億6300万円。売却額は消費税を含めて53億円。有名建築家を起用し、日本有数のゼネコンがつくった総投資額150億円のビルも、経済価値にするとこれくらいということだ。

 さて、気になるのは今後の使い道である。ビル内の戸建て住宅を生かすなら、ハウスウェディングやレストランが面白そうだが、これは素人(私)の思い付き。採算は合わないだろう。買い主となったニューシティコーポレーションの、お手並みを拝見したい。

(菅 健彦)

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