米Blackstone Group(ブラックストーン・グループ)の創業者で、立志伝中の人物であるスティーブ・シュワルツマン会長兼CEOが来日し、3月23日、メディア向けにブリーフィングを行った。大量の投資マネー(英語で“wall of money”と呼ばれる)が積み上がる一方で、投資機会が減っていると指摘される昨今。だが、シュワルツマン氏は「今でも素晴らしい投資機会は世界中にあり、実際我々はそれを獲得してきた」と自信をみせる。

 シュワルツマン氏が不動産分野の投資機会の例として挙げたのは、ごく最近のケースだ。この3月半ば、同社は米国で「Four Seasons」ブランドの高級ホテルなどを多数傘下に持つ、Strategic Hotels & Resortsを中国の安邦(アンバン)保険集団に売却することで合意した。Strategic Hotelsは昨年11月にブラックストーンが買収、非上場化したばかりの会社。「3カ月ほど前に60億ドルで買い、65億ドルで売った。悪くないディールだ」(同氏)。

ブラックストーン・グループ会長兼CEO、スティーブ・シュワルツマン氏
ブラックストーン・グループ会長兼CEO、スティーブ・シュワルツマン氏
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 ただしシュワルツマン氏は、「買収のための買収はしない。我々が投資するのは、何かの問題を抱え、我々が解決できると考えた案件だ」と説明する。例えば市況が回復しつつあるマーケットで、設備が老朽化し低い評価を受けている物件を取得して改修、売却する。同社が“Buy, fix, sell”と呼ぶ戦略である。スペインやイタリアなど、これまであまり注目されてこなかったマーケットでも投資機会を熱心に発掘し、成果を上げてきたという。

 また前述のStrategic Hotelsのように保有資産の価値に比べて株式市場の評価が低い会社や、価値判断の難しい不動産ポートフォリオを買収するのも、同社が得意とする戦略だ。

マイナス金利は追い風

 ブラックストーンはプライベートエクイティ(PE)、不動産、ヘッジファンド、不良債権などに投資しており、これらを合わせた運用資産総額(AUM)は3364億ドル(約38兆円)に達する。従業員は世界21カ所に約2000人。オルタナティブ投資会社としては世界最大の規模だ。同社が2015年に調達したエクイティ資金は936億ドル(約10兆6000億円)。これは2位~5位の4社の合計に匹敵するという。PEと並ぶ柱となっているのが不動産ファンドで、同社のAUMの3分の1を占める。

 「世界で最も多い資金を運用している我々は、エコノミストに聞かなくとも自社の生データを活用した知見を得られる」と話すシュワルツマン氏。低成長の先進国マーケットにあっても、「優れたファンダメンタルズを持つ分野にこだわり、分析を続ければ機会は訪れる」と自信を見せる。その一つが日本の住宅市場だ。

 2014年、同社は米General Electricの不動産事業撤退に伴いグローバルな買収を実行。その一環として、日本でも2000億円規模の賃貸住宅ポートフォリオを獲得している。2015年末には、日本での賃貸マンション投資を手がける英国のファンド、Japan Residential Investment Companyを買収して非上場化し、資産をさらに470億円相当上積みした。良好なファンダメンタルズから、同氏は物流施設市場にも興味を持っているという。

 シュワルツマン氏は、日本銀行が導入したマイナス金利政策に注目する世界の経済人の一人でもある。同氏によると、日本に限らず、世界経済の約3割はほぼゼロ金利かマイナス金利となっている。こうした環境はブラックストーンにとって追い風となっている。「日本の投資家からは多くの問い合わせがある。低金利環境で、何とかしてリターンを得たいというシンプルな理由からだ」(シュワルツマン氏)。

 同氏は、「約30年の歴史を通じて、ブラックストーンは安定的な収益を提供してきた。ほとんどリターンを生まない国債などの資産に投資する方がリスキーだと思う」と話す。

トランプに苦言

 シュワルツマン氏が38歳で起業したのは約30年前。あまたの投資家から拒絶され、資金が尽きかけたところで、当時の日興証券や三井信託銀行などがブラックストーンのLBO(レバレッジド・バイアウト)ファンドの初めての大口顧客となった。(創業の経緯は書籍「ブラックストーン」[東洋経済新報社 2011年]に詳しい)。同氏はこのことから、「日本とは長年の結びつきを感じるし、来るたびに楽しみだ」と語る。

 現在、日本での事業は、エクイティ総額50億ドル(約5600億円)のアジア不動産ファンド、Blackstone Real Estate Partners Asiaでの投資案件発掘を中心に展開している。PE分野も案件次第で検討していくというが、まだ日本国内での投資機会は少ないとみている。

 なお、ブリーフィングの席上では世界を揺るがすドナルド・トランプ旋風や、中国経済の見通しについても話題が及んだ。前者については「政策の議論よりも他の候補の攻撃に時間を費やしている」と批判。後者については、「彼らには“民主主義の足かせ”がない。これまでの政策運営を見る限り、中国の対応は迅速だ」と楽観論を披露した。

本間 純