制限速度は時速85マイル(137km)。全米で最も速い制限速度を掲げるテキサス州の有料道路で3月2日、運営権を持つ民間企業が連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用を申請した。開通からわずか3年余りで事業破綻となった。

 道路や空港といったインフラの運営を民間に委託するコンセッション方式は、日本でも導入され始めている。仙台空港では2016年2月、東京急行電鉄などのコンソーシアムが旅客ターミナルビルなどの運営を開始した。愛知県の有料道路は10月の事業開始に向けて民間企業の選定が進んでいる。

 比較的安定した交通需要と料金収入が見込めるはずのコンセッション方式の有料道路事業。だが、道路の新設を含むコンセッション事業で、事業採算の鍵となる交通量を正確にはじき出すことの難しさを浮き彫りにした。



 連邦破産法の適用を申請したのは、テキサス州のオースティンとサンアントニオを南北に結ぶ全長146kmの州道130号線(SH130)のうち、南側の66kmの区間を運営するコンセッション会社だ。スペインのシントラ(Cintra)と米国のザカリー アメリカン インフラストラクチャー(Zachry American Infrastructure)が共同で設立した。

 SH130の15kmほど西側には、州間高速道路35号線(I-35)が並行して通る。1994年に北米自由貿易協定が発効したことで、I-35にはメキシコ国境から流入するトラックが増え、深刻な渋滞が生じるようになった。その渋滞を解消するために計画されたのが、有料道路のSH130だ。

制限速度「時速85マイル」の標識を掲げるSH130(写真:Bob Daemmrich / Alamy Stock Photo)
制限速度「時速85マイル」の標識を掲げるSH130(写真:Bob Daemmrich / Alamy Stock Photo)
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SH130の位置。緑色はコンセッション会社が運営する有料道路、赤色は州が手がけるその他の有料道路(資料:テキサス州運輸局の路線図に日経不動産マーケット情報が一部加筆)
SH130の位置。緑色はコンセッション会社が運営する有料道路、赤色は州が手がけるその他の有料道路(資料:テキサス州運輸局の路線図に日経不動産マーケット情報が一部加筆)
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 SH130の北半分の区間は、主に州の事業として先行して整備。2006年から2008年にかけて順次、開通した。一方、南半分の区間はコンセッション方式を導入した。シントラとザカリーのコンソーシアムが2007年、建設と50年間の運営権を獲得した。

 コンセッション会社は運営権対価として最低2500万ドル(約28億円)を州に前払いしたうえで、道路建設のための資金調達と工事、維持管理を担う。それと引き換えに、通行料収入を受け取る。ここでは道路の制限速度を引き上げるほど、つまり利用者にとって道路の魅力が高まるほど、コンセッション会社が州に前払いしなければならない運営権対価が増える契約だった。州が制限速度を時速85マイルに設定したことで、運営権対価は1億ドル(約110億円)増えた。

 SH130のコンセッション方式による総事業費は13億5000万ドル(約1500億円)。シントラなどが2億1000万ドルを出資したのに対し、優先ローンとして6億8600万ドルを欧州の銀行団から、劣後ローンとして4億3000万ドルを交通インフラ資金調達革新法(TIFIA)に基づき米連邦政府からそれぞれ調達した。2009年に工事が始まり、2012年10月に開通した。