日本銀行によるマイナス金利政策がいよいよスタートしました。量的緩和、質的緩和に続く第三のカードによって金利全体を引き下げ、民間の消費や投資を拡大させるねらいです。マイナス金利はあくまで金融機関の日銀当座預金の一部に対する適用なのですが、物流REIT(不動産投資信託)であるGLP投資法人は、野村証券との金利スワップ取引によって、53億円・期間3年の銀行借入金利を実質的にマイナス0.009%に固定することに成功。お金を借りて利子がもらえるという、まさに「異次元」な金融環境に突入しています。

 ただしこれはレアケース。日銀の新金融政策について、不動産業界での評価は定まっていません。足元をみると、これまで堅調な市況を伝える分析レポートが多く発表されてきたなか、「Aクラスビルのオフィス賃料が下落に転じた」「オフィスビルの床単価が下落した」といったマイナスの材料がちらほらと出てきています。オフィス市況は今後どうなっていくのか。日経不動産マーケット情報2016年3月号の特集「2015年の賃料・企業移転分析」が、それを考えるうえで参考になるでしょう。将来の見通しについても触れていますので、ぜひお読みいただければと思います。

 不動産市況を左右する要因の一つは供給です。本誌では四半期に一度、東京と横浜で一定規模以上の建築計画を一斉調査しており、その結果を3月号に掲載しました。今年1月半ばまでの3カ月間で、新たに判明した開発プロジェクトは59件。総延べ床面積は160万m2です。うちオフィスビルは12件で、東京都心5区に集中しています。インバウンド需要で注目を集めるホテルも、新たに5件の開発計画が判明しました。各プロジェクトの概要は本誌でご覧ください。

 売買レポートは、香港のフェニックス・プロパティ・インベスターズによるグラスキューブ品川への投資や、エムジーリースによる仙台アゼリアヒルズの取得、ラサールロジポート投資法人の上場に伴う1600億円の物流投資、沖縄で相次ぐホテル取引など、25事例を紹介しています。また、これらを含む取引事例107件を一覧表にまとめました。

 3月号の注目データ欄に載せたANREV(アジア非上場不動産投資家協会)の調査によれば、世界の機関投資家・ファンドがアジア太平洋地域で最も投資したいのは、東京のオフィス。日銀のマイナス金利政策が吉と出るか凶と出るかはわかりませんが、引き続き日本の不動産市場には関心が集まりそうです。