東京の不動産に6000億円投資するとぶち上げ、2年ほど前に業界の話題をさらったノルウェー政府年金基金。その後、具体的な取引は聞こえてきませんでしたが、ついに昨年12月、東急不動産と共同で表参道かいわいの店舗ビル5棟を1325億円で取得しました。GIC(シンガポール政府投資公社)も同じく12月、新宿のオフィスビルの一部を625億円で取得することを決定。米ウエストブルック・パートナーズは新宿区内のタワーマンションを430億円で購入しました。さらに米プルデンシャル・ファイナンシャルが東京と大阪のオフィスに450億円を投資。香港ガウ・キャピタルは沖縄のホテル2棟を200億円で手中に収めました。これらはすべて、日経不動産マーケット情報2018年2月号の売買レポートを飾った取引です。

 再び勢いづく海外からの資金流入を背景に、昨年の国内不動産投資市場は売買高4兆2462億円を記録。あくまで小誌の報道ベースの集計ながら、金融危機後では最高の水準となりました。2月号の特集では、こうした不動産取引市場の1年を振り返り、足元の投資環境を分析しています。多くのグラフや表を掲載していますが、なかでも興味深いのは大型取引のまとめでしょう。冒頭で紹介した事例を含め、価格が判明している取引だけでも、200億円以上の案件は40件に上ります。最高額は米ブラックストーンが保有していた住宅221棟の売却で、価格は2600億円。中国の安邦保険集団が買い取りました。ほかにも、2008年以降のセクター別取引占有率の推移や、REIT(不動産投資信託)による取得・売却の推移、オフィスビルの利回り推移、個別物件ごとの推定利回りなど、様々な角度から市況を解説していますので、ぜひご覧ください。

 四半期ごとに実施しているオフィスビル成約賃料調査の結果も、2月号に掲載しました。東京のオフィスの空室率は3%そこそこで逼迫した状態が続いています。戦後2番目の長期にわたる景気拡大期にありながらも企業の財布のひもは堅く、賃料上昇のペースには一層の減速感が漂います。今年は続々と大型ビルが完成し新規のオフィス供給が増えることから、市況の先行きには注意が必要な情勢です。一方、新規供給が限られる大阪では、賃料が順調に上昇中。近年は梅田・中之島といった北部に需要を奪われていた南部のなんばでも、今年完成予定の大型ビルがすでに6割のテナントを決めています。調査では東京、神奈川、大阪のオフィスエリア28カ所の成約水準をまとめていますので、ご確認ください。

 2018年はリーマンショックから丸10年となる節目の年。世界的な景気拡大を受けて、日米ともに株高でスタートし、昨年は落ち込んだREITの投資口価格も復調に転じました。冒頭で記したようにSWF(政府系ファンド)をはじめ海外からの資金流入が続き、国内ではゆうちょ銀行が不動産投資を開始、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)も準備を進めています。今年はどのような不動産市場になるのか、目が離せません。

三上 一大