個性的なエリアが際立つ都市構造に

木下 翻って日本の首都圏のビジョンの図(「環状メガロポリス構造」)[図2]を見ると、これまで機能分散を軸に発展してきたわけですよね。丸の内のオフィス街から始まり、新宿などの副都心を周りにどんどん配置していった。幕の内弁当型の大都市複製戦略を未だに引きずっているのが心配です。

〔図2〕環状メガロポリス構造
〔図2〕環状メガロポリス構造
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東京都による「東京の都市づくりビジョン」は、広域的な環状メガロポリス構造の構築の推進をうたっている。石原慎太郎氏が都知事の時代、2001年4月に公表している「首都圏メガロポリス構想」を継承した格好となっている。近年は、より身近な圏域では駅などを中心に都市機能を集約し、コンパクトな市街地を形成する、という考え方を取っている(資料:「東京の都市づくりビジョン(改訂)」、地図制作:ユニオンマップ)

保井 それは私も指摘し続けています。同じような副都心を単に順繰りに更新し続けるのは、もう違うだろう、と。

木下 幕の内弁当が冷めたら、また新しい幕の内弁当をつくるのか、と。都市競争の局面は先に行っていて、どんな産業が集積し、どんな人たちが住むのか。都市は人が働くための道具という意識を転換し、都市生活のあり方そのものを見直す必要があります。

 新たな時代に向け、どういう都市生活を提案するのか。今の東京に必要なのは経済・文化を含めて、従来とは非連続の多様なライフスタイルに沿った更新だと思います。19~20世紀型の耐え忍ぶ労働の道具としての都市から離脱しなくてはならない。

保井 先日、パリの同時多発テロを考察している海外の記事に、「ポリティクス(政策)が多様な価値観を調整する機能を失った時には、単なるアドミニストレーション(管理)になる」という意味の文章に出合ったんです。そう言われると、日本の都市にはポリティクスってあるのかな、と。

木下 過去の連続でしか考えない、アドミニストレーションに留まっている感はありますね。

保井 都市整備って本来はポリティクスそのものじゃないですか、世界を見渡せば。

木下 極めてポリティカルですよね。

保井 多様な価値観や利害関係を前提に、それを受け入れつつ、生活者である市民、様々な事業を展開する企業、街をつくるデベロッパー、そして官の各部署が対話とネゴシエーションを重ね、新しい都市の姿をつくり出す。そうしたプロセスやマネジメントの仕組みづくりを避けていては、既存のやり方を踏襲するばかりで、大規模な建物はできても、将来にわたって期待感を持たせる都市なんてできない気がします。

 今後の都市では、デベロッパーやゼネコンが1社だけで事業を進めるんじゃなく、中小企業や個人による小さな動きともうまく連動させて、互いに役割分担して地域ブランドを向上させていかなきゃいけない。再開発の敷地内だけでなく、周辺の文化資源、個性的な店舗やサービス、リノベーションなど、既に起こってきている動きとも連携できれば、エリアとして際立っていく可能性があります。

木下 まさに単一の主体で画一的な都市整備をするのではなく、多様な都市経済と文化性を内包することが求められていますよね。

保井 産業を特化すると言っても一つじゃなく、様々な集積エリアがある。

木下 その通りで、同じようなエリアが複数あるのではなく、全く異なる特定産業にとって優位なエリアを幾つつくれるかですよね。

保井 首都圏は、環状の構造は道路を中心にある程度は残るとしても、これからは、より公共交通のネットワークに沿って、個性的なエリアが際立つ群雄割拠型の都市構造ができていくと思います。

木下 これまでのように内需だけで拡大する時代は終わるわけです。都心回帰も重なり、郊外なども同心円上にある都市は互いの特色で競い合わなければいけない。中心部のエリアも互いに特色を持って競争していくことになる。量的成長が一巡した先にある、都市の成熟に合わせた戦略が求められます。