維持管理での活用を目指す属性情報

 「この舗装工事でCIMを活用する目的は、竣工時に3次元モデルを納品することではなく、3次元モデルをツールとして活用すること」――。10月6日の午前、国土交通省 北海道開発局 留萌開発建設部の一室で、道路工業技術部主幹の矢野裕也氏はこう説明した。

 この会議は、舗装工事としては全国初と言われるCIM試行工事である「国道232号線金駒内登坂車線舗装工事」で、CIMモデルにどのような属性情報を入力するべきかを、受発注者間で協議するために行われた。

属性情報を協議するための受発注者間会議(左)が開かれた国土交通省北海道開発局留萌開発建設部の庁舎(右)(写真:家入龍太)
属性情報を協議するための受発注者間会議(左)が開かれた国土交通省北海道開発局留萌開発建設部の庁舎(右)(写真:家入龍太)
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CIMモデルに入力する属性情報の例(資料:道路工業)
CIMモデルに入力する属性情報の例(資料:道路工業)
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 既に工事は最盛期に差しかかっている。この時期に属性情報を検討する会議が開かれたのは、舗装工事の施工段階ではあまり属性情報は必要ではないからだ。

 「むしろ、CIMモデルには、維持管理業務での(1)点検、(2)維持・修繕工事、(3)事故発生時、(4)災害発生時の各段階で、道路管理者が必要とする情報を属性情報として持たせておくことが重要だ」と、矢野氏は続けた。

 会議の席で、矢野氏はノートパソコンを持参し、CIMモデルをスクリーンに映しながら、想定される属性情報を説明した。施工年月、製造元情報、設計図、配合設計や試験結果などを挙げて説明した。

 図面や試験結果などは、以前から使っている書類をPDF化して、CIMモデルの各部分にリンクする方法を考えている。アスファルト舗装の継ぎ目位置は、CIMモデル上に書き込む予定だ。

舗装断面のCIMモデル(資料:道路工業)
舗装断面のCIMモデル(資料:道路工業)
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目地の位置(左)や舗装厚の実測値(右)なども、CIMモデルや属性情報として盛り込まれる予定だ(写真:家入龍太)
目地の位置(左)や舗装厚の実測値(右)なども、CIMモデルや属性情報として盛り込まれる予定だ(写真:家入龍太)
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 このほか、道路の下を通るNTTや北海道電力などのライフラインの施工年度、管種や線種、更新予定時期などの詳細情報、基準点の位置や座標、わき水や陥没など施工中に生じた工事記録情報なども、候補に挙げた。

 さらにこれまで蓄積された道路維持台帳や完成平面図、MICHIシステムなどの既存データもCIMモデルとリンクさせることも検討していることを矢野氏は説明した。

所長自らが語った発注者のニーズ

 一方、発注者である国土交通省北海道開発局留萌開発建設部羽幌道路事務所の小森一澄所長は、「属性情報はあまり入れすぎてメンテナンスできなくなると意味がない。CIMでやった方がいいこと、やらない方がいいことを、手間と費用のバランスで提案してほしい。無理にCIMでやるよりも、写真に手書きした方が分かりやすい場合もあるからだ」と語った。

 維持管理業務でCIMを有効に使っていくためには、長年、継続的に活用できるシステムにしないと宝の持ち腐れになってしまう。

 「発注者としては、例えば初めて着任した職員が、CIMモデルによって道路の状態や内容をすぐに理解できるなどの効果を期待したい。また、CIMモデルや属性情報をあまり詳細に作りすぎて、今後の事業を受注する他社の負担が大きくなりすぎないようにすることも大事だ」(小森所長)。

除雪作業時に舗装の破損が懸念される個所についての監督員と協議(左)や、除雪業務を行う会社との打ち合わせ(右)にもCIMモデルを活用。維持管理段階で必要となる属性情報もこうした作業から明らかになっていく(写真:道路工業)
除雪作業時に舗装の破損が懸念される個所についての監督員と協議(左)や、除雪業務を行う会社との打ち合わせ(右)にもCIMモデルを活用。維持管理段階で必要となる属性情報もこうした作業から明らかになっていく(写真:道路工業)
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 国交省はCIM導入ガイドラインを、2016年度に作成する計画なので、CIMモデルの納品基準はまだない。ガイドライン作成に先行してCIMの導入が進んでいるこの工事の会議では、成果物よりも、発注者と受注者の業務効率をいかにCIMで高めることができるかを焦点に、必要な属性情報を検討している。

 舗装分野で初のCIM試行工事となった北海道の道路工事は、これからCIMモデル属性情報入力が行われ、いよいよ最終段階に入っていく。