トンネル工事現場は、目に見えないほどのゆっくりした地山の動きや、前方に待ち構える地山の性質を、ベテラン技術者が限られたデータで判断しながら掘り進むのが一般的だった。しかし、最近は測量結果やセンサーの計測データによって地山の挙動を分かりやすく見える化し、施工管理に使えるシステムが登場してきた。

3Dマッチ(鹿島、ソーキ)
3D点群と画像処理で壁面変位を3D計測

 掘削中の山岳トンネルは、まさに生き物だ。切り羽や壁面が変位するのを前提に、支保工を選んだり、覆工コンクリート厚を変えたりと、現場で着々と判断しながら施工していくことが求められる。

 一方、これまでのトータルステーションなどを使った計測方法では、トンネル天端など限られた点の変位しか観測できなかったので、トンネル内面の変位分布を知ることは困難だった。

 そこで鹿島はソーキ(本社:大阪市西区)と共同で、3Dレーザースキャナーで計測した点群データと、画像処理技術によって山岳トンネルの切り羽や壁面の変位を3次元計測できる「3Dマッチ」を2013年に開発した。

 その技術が、長野県飯田市で建設中の三遠南信小嵐トンネル調査坑工事(発注者:国土交通省中部地方整備局、トンネル延長:1544m)で、初めて実現場に適用された。

三遠南信小嵐トンネルでの3Dマッチ測定風景(左)と計測結果(右)。赤が変位大、青が変位小を表す(写真・資料:鹿島)
三遠南信小嵐トンネルでの3Dマッチ測定風景(左)と計測結果(右)。赤が変位大、青が変位小を表す(写真・資料:鹿島)
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「3Dマッチ」が初導入された三遠南信小嵐トンネル調査坑の現場(写真:鹿島)
「3Dマッチ」が初導入された三遠南信小嵐トンネル調査坑の現場(写真:鹿島)
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 過去と現在の点群データを比較して変位を求める場合、問題となるのが2つの点群データの位置をどう合わせるかだ。

 そこで両社は防犯分野で人物特定などに使われている「テンプレートマッチング」という画像処理によるパターン認識技術を使った。吹きつけコンクリートの微妙な凹凸パターンの中から一致する部分を探し出し、そこで点群の動きを比較することで面的な変位を高い精度で計測できるようにしたのだ。

吹きつけコンクリート面にテンプレートマッチングを応用し任意点の変位を追跡する(資料:鹿島)
吹きつけコンクリート面にテンプレートマッチングを応用し任意点の変位を追跡する(資料:鹿島)
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 三遠南信小嵐トンネル調査坑は、長野県と静岡県の県境を貫く「(仮称)青崩トンネル」本坑の建設に先立って掘削されている。

 トンネルルートは中央構造線に近接し、並行しており、周囲には中央構造線に斜行する断層破砕帯や亀裂密集帯があるため、断層などを原因とする大変位や局所変位の発生が予想された。

 まさに、トンネルルートと3次元的に交差するように、複雑な不連続面が分布していたわけだ。

 そこでこのトンネルに3Dマッチを導入したところ、切り羽や周辺壁面の変位を高精度に把握することができた。

三遠南信小嵐トンネルでの3Dマッチによる計測結果(資料:鹿島)
三遠南信小嵐トンネルでの3Dマッチによる計測結果(資料:鹿島)
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 地山のバランスが悪く、偏土圧が働く場合には天端以外の部分の変位にも注意が必要だろう。上の計測結果でトンネル内壁全体を見ると、天端での変位が小さくても、トンネル側方での変位が意外と大きかったりすることもしっかりと分かる。このデータがあれば、施工の安全管理もさらに万全になりそうだ。