イエイリ建設IT戦略

全天球カメラを建設業で! 設備点検から3Dモデル作成まで

2015/09/02

シャッターを1回押すだけで周辺の上下左右360度を撮影できる全天球カメラ「THETA(シータ)」。建設業での活用も期待できそうだ。ダウンライトのソケットから天井裏を撮影する、全天球写真をトレースして部屋の3Dモデルを作る、ドローン(無人機)に搭載して現場を上空から記録するなど、様々なアイデアを紹介しよう。

「RICOH THETA」の表面と裏面(左)。サイズは42mm(幅)×129mm(高さ)×22.8mm(奥行き)で、質量は約95gだ。右は全天球カメラの撮影イメージ(写真・資料:リコー)

 リコーは2013年に全天球カメラ「RICOH THETA」を世界で初めて一般消費者向け製品として発売した。

 全天球カメラとは、部屋の中や周囲の風景を左右上下にぐるりと360度記録したパノラマ写真(全天球イメージ)や動画をシャッター1回で撮影できるカメラだ。自分が見ている範囲だけでなく、背中や頭のてっぺんなど撮影者の死角となる部分も含めて、周囲のあらゆる方向で起こっていることを写真や動画でくまなく記録できる。最新機種「m15」の価格は3万4700円(公式直販サイト)だ。

建物の中で「RICOH THETE」(矢印)をかざして撮影した例。撮影者の方を見たところ(写真:リコー)
横方向(左)や真上の方向(右)も同時に撮影されている(写真:リコー)

ダウンライトの穴から屋根裏の設備を撮影

 この全天球カメラを天井裏や床下、ピットなど暗くて狭い場所の現状調査に使おうと、テクネット(東京都中央区)は、隠ぺい部撮影カメラ「PanoShot」を開発した。

 THETAの周囲にLED照明装置を装備し、これをポールに取り付けたもので、ダウンライトの開口部などの小さな穴から、天井裏や床下などの現状を360度撮影できるのだ。

THETAを囲むようにLED照明を装備したPanoShotの先端部。白い部分は3Dプリンターで作られている(写真:家入龍太)
現場での使用シーン(写真:テクネット)

 これをダウンライトなどの穴に差し込んで、スマートフォンでシャッターを切ると、その周囲の上下、左右360度を見渡せるパノラマ写真や動画が撮れる。

 一般のカメラだと、何枚も写真を撮るのに苦労するところだが、THETAなら1枚撮ればよい。なお、THETAとLED照明を取り付けるPanoShotの先端部は、3Dプリンターで作られている。

撮影された天井裏のパノラマ写真。1枚の写真で上下左右360度を見渡して現状を確認できる(写真:テクネット)

水中撮影やドローンからの空撮も

 THETAのアクセサリーであるハードケース「TH-1」を使うと、水面下の現場状況を撮影することもできる。

 頑丈で透明なポリカーボネート製の専用防滴ケースで、「外気と水中の温度差が5度未満の環境で、約1mの深さに一時的に30分間沈めても動作に影響がでない」レベルのIPX7の防水性能を持っている。

 ケースの底には三脚を取り付けるねじ穴が開いているので、これにポールを取り付けてスマホでシャッターを切る仕組みだ。

防滴性を持つハードケース「TH-1」。価格は3510円だ。(写真:家入龍太)

 さらに、小型軽量というTHETAの特性を生かして、ドローンに搭載してのパノラマ空撮という使い方もある。ドローンの上に付けると橋梁の裏側などの点検に、下に付けると現場での施工管理などに使えそうだ。

ドローンにTHETAを搭載したイメージモデル(写真:家入龍太)

ソフトをカスタマイズし建設業向けの機能に

 THETAで撮影できる距離はレンズ先端から約10cm~無限大だ。ISO感度は静止画で100~1600、動画で100~400と、結構暗い場所でも撮れる。シャッタースピードは静止画で1/8000~1/7.5秒、動画で1/8000~1/15となっている。

 静止画の場合、Wi-Fi接続したスマートフォンから遠隔撮影や各種設定を行うこともできる。撮影した写真をスマホに取り込み、専用の無償アプリで角度や大きさを変えて見られるほか、グーグルマップに全天球イメージを投稿することもできる。

 動画の場合は撮影後のデータをパソコンに取り込み、専用アプリ内の動画変換ツールによってつなぎ目のない全天球動画を作れる。その後はスマホで静止画と同様に見られるほか、専用ウェブサイト「theta360.com」にアップして、FacebookやTwitterなどSNSで共有jもできる。

スケートボードをしながら撮影した全天球動画のイメージ(写真:リコー)
撮影した全天球の写真や動画はスマホで見られる(写真:リコー)

 どちらかというと、お遊び的な要素が強い製品だが、全天球写真を撮れること、比較的安価なこと、そして専用ウェブサイト「theta360.com」で、カメラをパソコンやソフトで制御するためのAPIや、カスタマイズするためのSDK(ソフトウエア開発キット)が公開されていることなどのメリットを生かして、建設業の実務での活用が増えているのだ。

THETAをカスタマイズするためのAPIやSDKが公開されている専用ウェブサイト「theta360.com」(資料:リコー)

全天球写真に3Dモデルを配置

 このユニークなカメラの活用方法を競う「RICOH THETAデベロッパーズコンテスト」(主催:リコー、共催:YRPユビキタス・ネットワーキング研究所)が4月から6月にかけて開催され、8月20日に受賞作品の発表と表彰式が行われた。

 その受賞作には、建築・土木の業務で使えそうな作品が多かった。主な作品を紹介しよう。

 大賞に輝いたのは「Holobuilder」(受賞チーム名:bitstar。以下同じ)という作品だ。THETAで撮影した全天球写真に、3Dモデルや立体文字を追加することができるのだ。

 建物の内部をTHETAで撮った全天球写真に、家具やシステムキッチンなどの3Dモデルを配置すると、リフォームの検討などにも使えそうだ。

 また、このシステムは、各部屋で撮影した全天球写真同士にリンクを張って、グーグルストリートビューのようなナビゲーションを行える機能なども備えている。

大賞の「Holobuilder」。3Dモデルを選択し(上段)、全天球写真の中に配置することができる(下)(資料:bitstar)

順光と逆光の明るさを均一に調整

 部門賞も力作ぞろいだった。「アプリケーション・API部門賞」受賞したのは「360HDR」(チーム名:aimino。以下同じ)というアプリだ。

 周囲360度を撮影する全天球写真で屋外の写真を撮ると、どうしても順光と逆光の部分ができてしまい、明るさにばらつきができたり、つぶれて見えにくい部分ができたりする。

 そこで、このアプリでは同じ画角の写真を4種類のシャッタースピードで撮り、これらをHDR(ハイダイナミックレンジ)合成処理することによって明るさが均一な全天球写真を作成できるようにした。

 工事現場でも桁下やスラブ裏などの暗い部分と、屋外の明るい部分が両方写っている写真はこうした現象が起こりがちだが、360HDRで撮影すると細部までわかりやすい全天球写真が撮れそうだ。

THETAで屋外の写真を撮ると、暗い部分と明るい部分の差が大きくなる(資料:aimino)
同じ画角の写真を4種類のシャッタースピードで撮影する(資料:aimino)
合成され、明るさが均一になった全天球写真(資料:aimino)

全天球写真をトレースし、3Dモデルを作成

 アプリケーション・ユーティリティ部門賞を受賞した「3Dパノラマ画像計測システム PanoMeasure2」(ズームスケープ、インベステム)は、室内を撮影した全天球写真上をCADのようにトレースして3Dモデルを作成するソフトだ。

 リフォーム工事などで、1回の撮影で各部屋を記録し、3Dソフトでの概略設計を行って顧客に提案するなどの用途に活用できそうだ。

 精度が気になるが、熟練者なら3m以内にあるものなら平均誤差1%以内に収まるという。

アプリケーション・ユーティリティ部門賞を受賞した「3Dパノラマ画像計測システム PanoMeasure2」。全天球写真上をCADのようにトレースする(資料:ズームスケープ、インベステム)
出来上がった3Dモデル。DXF形式などで出力できる(資料:ズームスケープ、インベステム)

現場の音を360度のステレオサウンドで記録

 ガジェット部門賞を受賞した「Ambisonics360 マイクロフォン」(Qos_mic)は、動画とともに音声も360度のステレオで録音するための装置だ。

 正四面体の頂点に4つの小型マイクロフォンを配置したものを、THETAの上に取り付けて録音する。それにより、全天球映像を見る方向から来る音をステレオで聞くことができる。

 最近、クラウドコンピューティングや現場内のLANが普及してきたことから、現場の状況を映像や音声で遠隔地にいる専門家に送り、技術的な判断を仰ぐシステムの開発が増えている。全天球動画に加えて現場の音までを立体的に提供することで、重機や運搬車両、発電機などの配置を音でも感じられるようになる。まるで現場の真ん中に立っているような緊張感を現場最前線の技術者と共有できそうだ。

ガジェット部門賞に輝いた「Ambisonics360 マイクロフォン」。正四面体の頂点に小型マイクが装着されている(資料:Qos_mic)

 このほかの受賞作には、GPSと連動して動画の撮影開始、終了を制御できる「Theta GPS」(Cornelia and Harald Meyer)、撮影した人物を消せる「CliPETA」(石村 司)、THETAの写真をプレーヤー付きでメール送信できる「ポータブルパノラマプレイヤー」(MIRO)、船舶のディーゼルエンジン内部を分解せずに撮影できる照明、冷却装置付きケース「スマートエンジンカメラ きらりNINJA」(日本郵船、MTI、ダイトエレクトロン)などがあり、それぞれ使ってみたいと思わせる実用性を感じる。

船舶のディーゼルエンジン内部を分解せずに撮影できる照明、冷却装置付きケース「スマートエンジンカメラ きらりNINJA」(資料:日本郵船、MTI、ダイトエレクトロン)
「スマートエンジンカメラ きらりNINJA」で撮影したシリンダー内の映像(左)と撮影方法(右)(資料:日本郵船、MTI、ダイトエレクトロン)

 THETA自体の精度や性能も、今後、強化されていく予定なので、さらに高解像度の写真撮影などを生かした活用も、今後、可能になりそうだ。

家入 龍太 ケンプラッツ