竹中工務店が設計施工を行ったオフィスビル「キャピタグリーン」はシンガポールでBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)の義務づけが完了した2015年、同国のBIMアワードで最優秀賞を獲得した。施工段階で意匠、構造、設備の生産設計にBIMを効果的に活用したことが評価された。

 シンガポールの中心街に地上40階、高さ242mのオフィスビル「キャピタグリーン」が完成した。伊東豊雄建築設計事務所が基本設計を担当したこのビルの設計施工に際し、竹中工務店は、意匠、構造、設備の生産設計や施工管理にBIMをフル活用した。

シンガポールの中心街にそびえ立つオフィスビル「キャピタグリーン」(写真:家入龍太)
シンガポールの中心街にそびえ立つオフィスビル「キャピタグリーン」(写真:家入龍太)
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 その成果は、シンガポールのBCA(建築建設庁)が2015年に行った「BIMアワード」で最優秀の「プラチナ賞」受賞という形で認められた。設計施工にかかわった同社、YKK APシンガポール、日立インフラストラクチャー・システムズ・アジアなどの日本企業を含む8社での共同受賞だった。

「プラチナ賞」の賞状を手にする竹中工務店のBIMマネージャー、石澤宰氏(写真:家入龍太)
「プラチナ賞」の賞状を手にする竹中工務店のBIMマネージャー、石澤宰氏(写真:家入龍太)
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巨大な外気取り入れ口を東京とのコラボでモデリング

 キャピタグリーンのBIM活用で特徴的なのは、「アルゴリズミックデザイン」という手法を幅広く取り入れたことだ。複雑な曲面やものの配置などを、数式やルールを使ってコンピューターの力を借りながらデザインする手法である。

 屋上には、花びらのような形をした大きな外気取り入れ口(ウインドキャッチャー)が付いている。地表に比べて約2度低い屋上部の外気を、ビル内の「クールボイド」に取り込み、空調エネルギーを低減させる働きを持つものだ。

屋上部の涼しい風をクールボイドに取り込むウインドキャッチャー(左)。ビルの外観でもアクセントを加えている(右)(左資料:竹中工務店、右写真:家入龍太)
屋上部の涼しい風をクールボイドに取り込むウインドキャッチャー(左)。ビルの外観でもアクセントを加えている(右)(左資料:竹中工務店、右写真:家入龍太)
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ウインドキャッチャーの竣工写真(資料:竹中工務店)
ウインドキャッチャーの竣工写真(資料:竹中工務店)
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 この花びらのように複雑な形をできるだけ薄く、少ない種類の曲率で表現するため、竹中工務店はシンガポールの現場事務所で、複雑な3D曲面をデザインする「Rhinoceros(ライノセラス)」とそのアドオンソフト「Grasshopper(グラスホッパー)によって、ウインドキャッチャーの骨格となる鋼材のピッチや曲率を徹底的に検討した。

 その結果を、竹中工務店の東京本店で詳細構造設計用BIMソフト「Tekla Structures」によりモデル化。そのBIMモデルデータは、シンガポールの鉄骨製作会社、ヨンナムが引き継ぎ、さらなる調整を行って製作した。

 シンガポール→東京→シンガポールと、BIMモデルデータをリレーしながら、設計がモデル上で詳細化されていったのだ。この過程でウインドキャッチャーの厚さを25%、重量を20%削減することに成功した。

竹中工務店の東京本店でTekla Structuresによって作られた詳細BIMモデル(資料:竹中工務店)
竹中工務店の東京本店でTekla Structuresによって作られた詳細BIMモデル(資料:竹中工務店)
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ヨンナムの工場で仮組みされたウインドキャッチャーの鉄骨(写真:竹中工務店)
ヨンナムの工場で仮組みされたウインドキャッチャーの鉄骨(写真:竹中工務店)
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 苦労したのは、屋上でウインドキャッチャーの鉄骨を組み立て、表面に焼付塗装のアルミ折板を張り付ける作業だ。

 「曲面全体をカバーし、アルミ折板を張る作業スペースを確保しながら全体に足場をかける必要があった。そしてクレーンとの干渉も考慮しないといけないという困難さがつきまとった」と、キャピタグリーン・プロジェクトのBIMマネージャーを務める竹中工務店の石澤宰氏は振り返る。

 そこで鉄骨や仕上げ材の組み立ては、屋上やタワークレーンのBIMモデルを使い、施工担当者がシミュレーションを行って、クレーンの可動範囲やウインドキャッチャーの鉄骨との干渉を考慮しながら作業手順を検討した。

 表面のアルミ折板は、下から上へと張っていく「はぜ葺(ぶ)き仕上げ」を採用した。しかし、単純に下から順番に張っていったのでは、全体の作業時間が長くなるため、ウインドキャッチャーの仕上げ面を分割して、同時並行で張っていく方式を採用した。

 「同じサイズの板を使い、廃棄率を減らしながら作業性も考慮し、意匠的にも関係者が合意できるパネルサイズを決める作業は1日で完了した」と石澤氏は言う。この検討も、RhinocerosやGrasshopperを使って行った。

 プログラミングには8時間がかかったものの、その後の検討は1ケース当たりわずか10分で済んだ。パネルサイズの検討は7ケース行ったため、合計9.2時間で終わった、従来の手作業による方法だと、1ケース8時間、7ケースで56時間かかる計算だ。アルゴリズミックデザインの活用で、83.6%もの時間短縮が行えたことになる。

タワークレーンとの干渉を考慮した、ウインドキャッチャー鉄骨の組み立て作業手順の検討(資料:竹中工務店)
タワークレーンとの干渉を考慮した、ウインドキャッチャー鉄骨の組み立て作業手順の検討(資料:竹中工務店)
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アルミ折板の張り付け作業を行うための足場のBIMモデル(左)と実際の現場(右)。ウインドキャッチャーの鉄骨を交差するように足場が立っている(資料・写真:竹中工務店)
アルミ折板の張り付け作業を行うための足場のBIMモデル(左)と実際の現場(右)。ウインドキャッチャーの鉄骨を交差するように足場が立っている(資料・写真:竹中工務店)
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ウインドキャッチャーに張るアルミ折板の最適サイズをRhinocerosやGrasshopperで検討したところ(資料:竹中工務店)
ウインドキャッチャーに張るアルミ折板の最適サイズをRhinocerosやGrasshopperで検討したところ(資料:竹中工務店)
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