2018年にひとまず完成・公開予定

 バーチャル・シンガポールは、実物のシンガポールをそっくりそのままデジタルデータとして再現する「仮想化(バーチャライズ)」、見える化する「可視化(ビジュアライズ)」の機能に続く3つ目の機能として「商業化(ベンチャライズ)」というコンセプトがしっかりと位置付けられている。

 これらの3大機能を表す英語(Virtualize、Visualize、Venturize)の頭文字をとって「3つのV、V3」と呼んでいる。

バーチャル・シンガポールの3つのV(資料:NRF)
バーチャル・シンガポールの3つのV(資料:NRF)
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 具体的には、スマホのアプリを使った商業施設の案内や、携帯電話の基地局を効率的に配置するための電波の伝搬解析、人の動きを解析する群集シミュレーションや災害時の避難を効率化する救助シミュレーションなどだ。

 また、携帯電話の電波の伝搬解析、災害が発生したときの避難・救出シミュレーション、自動車交通や歩行者移動の検討にも使える。

 このほか、ビル内部のフロアを表示して、車イスで通れるルートを案内したり、認知症の高齢者が街のどこにいるのかを探したり、さらには迷子になったペットの居場所を突き止めたりと、活用方法は無限と言ってもよい。

スマホアプリとの連動や商業施設の案内など、商売っ気もたっぷり(資料:NRF)
スマホアプリとの連動や商業施設の案内など、商売っ気もたっぷり(資料:NRF)
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 バーチャル・シンガポールは2018年にひとまず完成し、公開される予定だ。以後の運用はSLAが担うことになる。 その後、データを現状に合わせていかにメンテナンスしていくかによって、「生きたデータベース」になるかどうかが問われることになる。

 「バーチャル・シンガポールのデータ更新方法も、利用者がスマートフォンで撮影した写真や、ドローンなど、最先端の技術を使って行うことを検討している」とSLAの地理情報ディレクター、グー・シァウ・ヤン(NG Siau Yong)氏は説明する。

 国家で開発するデータベースを、民間の利益につなげていこうという発想は、さすがにシンガポールだ。その結果、ユーザーが増えれば、国家としての投資効果は大きくなる。そしてシステムのさらなる充実や改良にも、ユーザーからの情報を生かすことができる。こうしたビジネスモデルは、日本のインフラ管理にも大いに参考になりそうだ。

家入龍太(いえいり・りょうた)
家入龍太(いえいり・りょうた) 1985年、京都大学大学院を修了し日本鋼管(現・JFE)入社。1989年、日経BP社に入社。 日経コンストラクション副編集長やケンプラッツ初代編集長などを務め、2010年、フリーランスの建設ITジャーナリストに。 IT活用による建設産業の成長戦略を追求している。 公式ブログ「建設ITワールド」(http://www.ieiri-lab.jp/)を運営。 著書に「CIMが2時間でわかる本」(日経BP社)、「図解入門 よくわかるBIMの基本と仕組み」(秀和システム)など。