イタリアの3Dプリンターメーカー、WASP社は2015年9月、実物の建物を作れる巨大3Dプリンター「ビッグ・デルタ」を完成させた。高さは12mと世界最大級だ。同社はこの3Dプリンター開発の目的は、現地で入手できる材料を使って低所得者層に低コストの住宅を大量供給するためだ。つまり、究極の目標は「地球を救う」ということなのだ。

 イタリアのWASP社は、昨年9月に開催したイベントで、世界最大の巨大3Dプリンター「ビッグ・デルタ(BigDelta)」をお披露目した。

 本体となる六角形の立体トラスは、高さ12mで3本の柱で支えられている。

WASP社が開発した世界最大の巨大3Dプリンター「ビッグ・デルタ」(写真:WASP)
WASP社が開発した世界最大の巨大3Dプリンター「ビッグ・デルタ」(写真:WASP)
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 内部には3本の伸縮式アームで支えられたコンクリートバケットのように巨大な造形ヘッドが取り付けられている。

 この造形ヘッドから、固練りコンクリートのような材料を建物の壁に沿って一定の厚さで積み上げながら、型枠なしで壁を作っていけるのだ。

3本のアームで支えられた造形ヘッド(写真:WASP)
3本のアームで支えられた造形ヘッド(写真:WASP)
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 使用電源は1kW~1.5kWと意外に小さい。その理由は電源がない場所でも、1枚のソーラーパネルを使って動かせるようにすることを狙ったからだ。

実物の建物も造形、目指すは「ゼロキロメートルハウス」

 同社では3年をかけて、ビッグ・デルタの研究開発を行ってきた。その開発資金は、同社が販売する小型3Dプリンターの収益から拠出してきた。

 そして現在は、実物の建物を、この巨大3Dプリンターで建設することに注力している。建物の建設地点で産出される材料を使って、物流(建材の運搬)による環境負荷を最低限に抑える「ゼロキロメートルハウス」を建造するのが次の研究目標だ。これにはやや長い時間がかかるという。

 これだけの大きさの3Dプリンターだと、実物の建物も問題なく作れそうだ。しかし、まだ実際に実物の建物を建設した実績はないという。

 1軒の住宅を「プリント」するのにかかる時間は材料によって異なる。早く固まるように配合されたセメント材料を使った場合は高さ数メートルの壁をわずか数時間で建設できる。

 こうした材料を使えば、すぐにも住宅の建設は可能だが、同社には興味がない。というのも、同社がビッグ・デルタを開発した目的は、セメントなどの材料が入手できない地域で住宅を建設するためだからだ。

ビッグ・デルタで造形しているところ(写真:WASP)
ビッグ・デルタで造形しているところ(写真:WASP)
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