政府は、2017年4月に予定している消費税率引き上げの準備を着々と進めている。軽減税率に向けた与党の合意が整い、いよいよ、増税が現実のものとして迫ってきた。住宅生産団体連合会などの業界団体が要望してきた住宅への軽減税率適用を今回、実現するのは難しいようだ。住宅業界は、消費税率引き上げへの対応を求められる。

 注文住宅については、消費税率引き上げへの対応時期が一足先に訪れる。前回の税率引き上げの際、請負契約の経過措置期限が半年前に設定された。経過措置とは、税率引き上げ後に引き渡す住宅についても、引き上げ前の税率が適用される措置だ。今回も前回と同様であれば、2016年9月までに契約すれば、2017年4月以降に引き渡しても消費税率は8%のままとなる。

 本誌が一部の読者を対象に実施した調査では、前回の税率引き上げ時に経験した「困ったこと」として、大きく4項目が挙げられた。
(1)受注の集中と激減
(2)顧客対応
(3)職人不足
(4)資材不足

(1)受注の集中と激減

 これは、税率引き上げ前の駆け込み需要と、引き上げ後の反動減によって生じた極端な受注の増減だ。注文住宅や大型リフォームについては、経過措置期限となる半年前(前回は2013年9月)までに駆け込み需要が生じ、その後、反動減が生じた。建て売りなどの分譲住宅や小規模なリフォームでは、2014年3月までに駆け込み需要が生じ、4月以降は反動減で受注がばったりなくなった。住宅取得を希望している一般の人々に経過措置期限ばかりが伝わり、分譲住宅まで2013年10月以降、客足がばったり止まったという声もあった。

(2)顧客対応

 旧税率の5%と現税率の8%がどのタイミングで適用になるかを説明したものの、顧客との認識の違いでトラブルが発生したとの声があった。中には、経過措置期限を過ぎた2013年10月以降に請負契約をして2014年3月までに引き渡すはずが、工期が遅れてしまい、8%を建て主に要求できず、税率引き上げ分3%を住宅会社が負担したというケースもあった。

(3)職人不足

 駆け込み需要によって受注が集中し、工事を進めるために工務店同士で職人の奪い合いが発生した。いつも依頼している職人が他社の仕事で動けず、別の職人を探さなければならなかった。日頃、厳しい金額で仕事を発注していた住宅会社は、仕事を断られたり、工事単価の引き上げを要求されたりした可能性がある。

(4)資材不足

 資材不足も工事が集中したために生じた。不足した品目としては、木材や設備機器などを挙げる声があった。ただ、この問題は、2014年2月に関東地方で大雪が降り、メーカーの工場が被害を受けたため、製品の出荷が遅れたことも影響している。資材不足は、このような複合的な要因によって生じたとも考えられる。

 以上が、前回の消費税率引き上げ時に住宅業界で生じた困ったことだ。これ以外にも様々な混乱が生じたと考えられる。次回の消費税率引き上げの際には、こうした混乱を乗り越えるための対策が重要になる。既に取り組みを始めている住宅会社もある。反動減に備えて受注を確保する方法を練ったり、協力会社との関係を強化して職人を確保したりするなどだ。2016年の住宅市場を攻略する上で、消費税率の引き上げに伴う混乱を乗り切る対策がカギを握る。


 日経ホームビルダー2016年2月号では、前回の消費税率引き上げ時の困ったことなどから次回の教訓を得る特集記事を予定しています。その一環として、アンケート調査を実施中です。あなたの体験と対策を、ぜひお教えください。