ある工務店の経営者から、こんな話を聞いたことがある。「最近、うちが手掛けた築5年の戸建て住宅で、雨漏り事故を起こしてしまった。その補修に約400万円の費用がかかったが、瑕疵保険(住宅瑕疵担保責任保険)の保険金が下りたので事なきを得た。これほど保険金がありがたいと思ったことはない」

 経営者には安堵の表情が浮かんでいた。大きなトラブルが解決したのだから、ホッとするのは当然だろう。よほど安心したのか、彼はポロっと本音を漏らした。「保険に入っていれば何も心配することはない。引き渡して10年以内の雨漏り事故なら保険が下りる。10年経過したら、もう瑕疵担保責任は問われない。保険さえ入っていれば、自腹を切って補修することはない」

2000年に品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)が施行されてから、木造住宅の瑕疵担保責任は10年になった(資料:日経ホームビルダー)
2000年に品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)が施行されてから、木造住宅の瑕疵担保責任は10年になった(資料:日経ホームビルダー)
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 しかし、このように甘く考えるのは危険だ。雨漏り事故が発生したときには、品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)の瑕疵担保責任だけでなく、民法の不法行為責任が問われる可能性もあるからだ。その根拠となっているのが、2011年7月の最高裁判決(いわゆる別府判決)だ。同判決では、民法の不法行為責任に基づく損害賠償の範囲として「雨漏り被害」や「タイル落下による人的被害」などを明示した。

2011年の最高裁判決で、民法上の不法行為責任に基づく損害賠償の範囲として、雨漏り被害やタイル落下による人的被害などが明示された。民法の不法行為責任の時効(除斥期間)は20年。これにより、雨漏り事故は20年にわたって責任追及される時代になった(資料:日経ホームビルダー)
2011年の最高裁判決で、民法上の不法行為責任に基づく損害賠償の範囲として、雨漏り被害やタイル落下による人的被害などが明示された。民法の不法行為責任の時効(除斥期間)は20年。これにより、雨漏り事故は20年にわたって責任追及される時代になった(資料:日経ホームビルダー)
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 民法の不法行為責任の時効(除斥期間)は20年。つまり、設計者や施工者は、引き渡し後20年にわたり、雨漏り被害の責任を追及される可能性がある。この最高裁判決が出た後、雨漏り事故やタイル落下事故などをめぐり、不法行為責任を追及する訴訟が各地で起こっている。もし、引き渡しから10年を超えた時点で裁判所から損害賠償を命じられると、住宅瑕疵担保責任保険は下りないから、自腹で補修しなくてはならなくなる。