残念ながら、現実の土木も…

 新海監督と建設業界との縁は、大成建設のCM制作だけではない。長野県の建設会社がウェブサイトで、社長の子息として新海監督を紹介している。したがって土木業界の真面目な面をある程度知っていてもおかしくないのに、この描き方は酷ではないかという気持ちが少しあった。しかし誤解を招く不当な描き方とまでは言えない。

 残念ながら現実の土木業界は、まるで映画にタイアップするかのように、ごく最近になって「いかがわしさ」が濃厚になっている。国土交通省三重河川国道事務所発注の橋梁工事を巡る贈収賄事件や、舗装談合事件が進行中だ。2005年の大手建設会社による「脱談合宣言」や災害復旧への貢献、土木構造物の観光資源化などで一般社会でのイメージが改善されていたとしても、恐らく今回の事件で水泡に帰するだろう。

 土木工事を発注する政官界は権力を握っている以上、常に腐敗の危険性をはらんでいる。受注者として接近する土木業界はその巻き添えを食っているにすぎないとも言えるが、いつまでもダーティーなイメージを引きずっていては、国内でただでさえ減っていく若者はますます寄り付かなくなるに違いない。汚職事件への対応はコンプライアンス(法令順守)や企業倫理だけの問題ではなく、企業の存続にかかわることを、建設各社は強い危機感とともに自覚すべきではないだろうか。

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