「時代劇にイチゴショート」

 宇土櫓で観光客として初めて鉄骨の筋かいを見た時は、「もうちょっと目立たないように補強してくれたらよかったのに」と少しがっかりしたが、今ではむしろ、近代の技術で補強していることを隠さず明示している点で良い事例だと思うようになった。江戸以前からあった既存部材と近代以降に加えた補強部材との区別が付かない状態の方が、伝統木造に関する誤解を与える恐れがある点で問題ではないだろうか。

 時代劇で例えると、例えば侍が食べる茶菓子として栗まんじゅうを出すことは、明治時代に生まれたとされるこの和菓子が江戸時代にもあったと誤解させる恐れがあり、好ましくない。それに対し、例えばイチゴのショートケーキを出すと、史実から逸脱した架空の場面であることが誰の目にも明白なので、視聴者をミスリードすることにはならないと考えるのだ。

 今後の櫓や石垣の復旧工事で、江戸時代以前の状態のままでは特に地震に弱いことが明らかな箇所には、既存部材とはっきり区別できる形で「最新の技術」を大胆に導入することも検討されてよいのではないか。

櫓(やぐら)台の石垣とともに完全に崩壊した国指定重要文化財の北十八間櫓。宇土櫓と同時期の桃山時代末期に築かれながら、被害の程度は大きく異なる。8月11日に撮影(写真:日経コンストラクション)
櫓(やぐら)台の石垣とともに完全に崩壊した国指定重要文化財の北十八間櫓。宇土櫓と同時期の桃山時代末期に築かれながら、被害の程度は大きく異なる。8月11日に撮影(写真:日経コンストラクション)
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