建築の日経アーキテクチュア、戸建て住宅の日経ホームビルダー、そして土木の日経コンストラクション。3誌の記者を経験して、取材で感じた3業界の最大の違いは何かと問われたら、「設計者」の位置付けだと答えるだろう。

 戸建て住宅の設計者は、施工者が兼ねるか、または施工者の下請けになるのが一般的で、どちらかと言えば影が薄い。集合住宅や非住宅建築と土木構造物では、設計者は施工者から独立した存在であることが多くなる。

 なかでも建築の設計者の一部が「建築家」と呼ばれて、一般社会でも脚光を浴びる。後世に名を残すこともある。該当するのはごくごく一部の建築設計者だけであるが。

 そのような構造物における設計者の位置付けの多様性を、映画『ル・コルビュジエとアイリーン 追憶のヴィラ』(監督・脚本:メアリー・マクガキアン)を見て改めて考えさせられた。ベルギー・アイルランド合作映画で、日本での公開は10月14日からだが、8月中旬に試写会で鑑賞する機会を得た。

ル・コルビュジエが基本設計を手掛けた国立西洋美術館(写真:日経コンストラクション)
ル・コルビュジエが基本設計を手掛けた国立西洋美術館(写真:日経コンストラクション)
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 *以下に『ル・コルビュジエとアイリーン 追憶のヴィラ』の内容に関する記述が含まれています。

 映画の主要な舞台である「追憶のヴィラ」とはフランス南部、ニース近郊のリゾート地に1929年に完成した邸宅のことだ。設計した建築家によって「E.1027」というタイトルが付けられている。

 設計者は、かつてはル・コルビュジエとされていたという。スイス出身の20世紀を代表する建築家で、日本の国立西洋美術館を含む一部の作品は世界文化遺産に登録されている。…といった基礎事項を、建築の取材から離れて久しい筆者でもすぐに思い浮かべられるほどの巨匠だ。