大動脈の常磐道で毎週末上京

 映画の舞台はいわき市を中心とする福島県浜通り地方で、主な登場人物は浜通りの自治体に勤める主人公の金沢みゆき(瀧内公美)と、その父親で農業を営む金沢修(光石研)だ。みゆきの母、修の妻は震災の津波で亡くなり、自宅を含む地域は原発事故で空間放射線量が比較的高い帰還困難区域とされて、2人は仮設住宅に住んでいる。

JRいわき駅(2013年3月撮影)。映画『彼女の人生は間違いじゃない』の主人公・金沢みゆきは毎週末、同駅前に発着する高速バスで上京する(写真:日経コンストラクション)
JRいわき駅(2013年3月撮影)。映画『彼女の人生は間違いじゃない』の主人公・金沢みゆきは毎週末、同駅前に発着する高速バスで上京する(写真:日経コンストラクション)
[画像のクリックで拡大表示]

 かつて筆者が取材した常磐道は、映画でも浜通り地方と東京を結ぶ交通の大動脈の役割を果たしている。みゆきは週末になると、常磐道を走る東京行きの高速バスに乗る。上京の目的は震災や復興とは無関係で、風俗産業(デリヘル)での匿名のアルバイトだ。

 異常なアルバイトをする理由を具体的に語る場面は無かったが、被災者であり被災自治体の職員であるという重い現実からのつかの間の逃避ではないかと筆者は想像した。地方公務員の副業を規制する地方公務員法38条に触れる行為ではあるのだが。

 一方、原発事故の影響で農業ができなくなった修は、鬱屈した思いと妻を失った悲しみを引きずりながら、受け取った補償金をパチンコにつぎ込む無為の日々を過ごしている。農地の除染は始まってはいるが、農業を再開できる時期は未定だ。

 2人を取り巻くのは今日明日に終息するような状況ではないわけだが、映画には何らかの結末が必要だ。どのような“着地点”があり得るだろうかと見ながら予想を試みた。原発事故という題材が結び付きやすい政治的な主張も悲劇性の強調もなく、説明的な要素が少ない作品なので、予想は困難だった。

 みゆきは東京でデリヘルのマネジャーの三浦秀明(高良健吾)と出会う。この三浦が映画の結末で重要な役割を果たす。