自治体職員は住民を説得できるか

 さて、地方都市でBRTやLRTを導入して公共交通の拡充を図る自治体は、もちろん住民に運転免許の返納を迫ったりはしない。だが、既存道路の車線の一部をBRT専用にしたり、LRTの軌道敷に充てたりすることで、結果として自家用車を利用しにくくする可能性はある。

 反感を抱く住民がいるのも無理はないとは思う。ただ、周造が住む横浜のような大都市に比べて一般に高齢化率が高い地方都市では、加齢で運転の腕が怪しくなっても周りから止められずに運転を続けて、大事故を起こす恐れも大きいことを指摘しないわけにはいかない。自治体が公共交通拡充を検討する必要性はあるというべきだろう。

 自家用車に慣れた高齢住民を、公共交通に乗り換える気にさせるものは何だろうか。自治体は盛んに住民向けの説明会を開いたり、自治体のウェブサイトで住民の質問に答えたりしているが、どうだろう。自治体職員と高齢住民とは、世代のほかに官民の立場の違いもあり、相互理解には限界があるのではないかと個人的には思っている。言葉が説得力を持つかどうかは、内容以上に、言った人と言われた人との距離や関係に左右されるのではないだろうか。

使えるか、住宅業界の営業手法

 よく使う交通手段が長年住んだ住宅に似ているのであれば、新しい交通手段を住民に受容してもらううえで住宅業界の知恵が役に立つかもしれない――。住宅業界の取材の経験者として思い当たった。

 同業界では、住宅会社がいわゆる「見込み客」を攻略するために、モデルハウスで社員に営業させるのではなく、過去に販売した住宅に案内して顧客に住み心地の良さを語らせることがある。営業のプロが繰り出すセールストークよりも、同じ消費者という親近感を利用する営業手法だ。

 BRTやLRTの導入を図る自治体も、地元住民向けの説明会に導入済みの地域の住民を招いて、使い勝手について話してもらうというのはどうだろう。

 取材中の自治体のなかには、住民への説明でこのような手法を用いることを検討しているところもある。詳細は後日まとめる記事で解説する予定だ。

JR柳津駅前に停車中のJR気仙沼線BRTのバス。JR東日本は同線とJR大船渡線のうち、東日本大震災での被害が大きく復旧が困難な区間をBRTに転換した(写真:日経コンストラクション)
JR柳津駅前に停車中のJR気仙沼線BRTのバス。JR東日本は同線とJR大船渡線のうち、東日本大震災での被害が大きく復旧が困難な区間をBRTに転換した(写真:日経コンストラクション)
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