構造計算の義務付けもない

 4号建築物には構造計算が義務付けられていない。しかも4号特例によって、特定行政庁による違いはあるものの、一般的には建築確認申請時に構造計算書はもちろん壁量計算書などの構造関係の資料の提出も求められない。

 4号特例は、建築確認の審査を簡略化するために書類提出を義務付けていないだけで、構造安全性のチェックを免除しているわけではない。「提出しなくてよいということは、法令にのっとって細かく安全を確認する必要はない」と都合よく解釈してはだめだ。

 熊本地震では、現行の新耐震基準が導入された2000年以降に建てられた比較的新しい住宅でも被害が目立った。京都大学生存圏研究所の五十田博教授によると、2000年基準に沿って建設したと思われる住宅のうち、倒壊したものが最大9棟(うち4棟は完成年が特定できていない)、全壊したものが最大8棟(うち2棟は完成年が特定できていない)あった。(関連記事:2000年住宅基準の課題が浮き彫りに~京大・五十田教授に聞く~

年代による耐震基準の違い(資料:日経ホームビルダー)
年代による耐震基準の違い(資料:日経ホームビルダー)
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 建築基準法は、1条で「最低の基準を定める」と明記している。建築士は誰もが、建築基準法の規定が最低の基準で、建築確認が安全性のお墨付きを与えてくれるものではないことを知っている。

 それなのに、より高い性能を持てることを建て主に伝えずに建築基準法ぎりぎりの「最低の住宅」をつくったり、4号特例に甘えて構造のチェックを怠ったりする不心得者も残念ながらいるようだ。震度7の揺れが2回も襲ってくるような巨大地震が起こると、こうした不誠実な行為は被災地であらわになり、多くの被災者を苦しめることになる。

 もちろん、きちんと構造を考えて住宅を設計する建築士はたくさんいる。構造をプレカット工場任せにせず、伏せ図の作成などを自ら手掛けたり、構造設計者とタッグを組んだりする意匠設計者も少なくない。

 4号特例の見直しと、4号建築物に対する構造計算の義務化は別に考えたい。まずは4号特例の廃止だ。

 国土交通省は、構造計算書偽造事件に伴う07年6月の改正建築基準法が引き起こした「建基法不況」の二の舞を避けたいと思っているのだろう。

 しかし、4号特例を廃止するとはいっても、これまで提出してこなかった資料を添付するだけのことだ。もし壁量計算などでさえできない建築士がいるとすれば淘汰されるだろうが、違法行為に手を染める建築士を排除できるメリットは大きい。

 確認事務が増えたとしても、新築市場の縮小にあえぐ民間確認機関なら対応できる。確認申請に要する追加費用は、建て主が負担するのが筋だろう。支払いを要請する時に構造について詳しく説明すれば、建て主も構造の重要性を認識するきっかけになる。より高い性能を求める動きも出てくるはずだ。

 そのうえで、次の段階として4号建築物に構造計算を義務化すればいい。仕様規定をバージョンアップする方法もあるが、「壁量計算で求めた壁量が構造計算で求めた壁量に比べて不足するケースもある」(五十田教授)ことから、より実態に即した設計ができる構造計算に移行したい。

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2008年4月22日付けの「四号建築物に係る確認・検査の特例の見直しについて」(資料:国土交通省)
2008年4月22日付けの「四号建築物に係る確認・検査の特例の見直しについて」(資料:国土交通省)
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