承認欲求を満たしやすい業界

 建設工事は様々な構造物を造ったり壊したりする。その影響力は、映画のような虚構だけでなく実社会でも大きいものがある。住宅を含む建築工事は個人の人生や企業の社運を懸けて行われることも多く、土木工事はしばしば地域経済や防災で大きな効果を期待される。

 したがって、工事の目的や内容が妥当であれば、従事する技術者や技能者は世のため人のためになる仕事をしていると実感しやすいはずだ。建設業は、社会で必要な人材として認められたい欲求が強い人に向いている業界だと筆者は思う。孤児だった過去を持つ田所啓太も、そのような思いで入職した可能性はあるだろう。

 近年も内閣府の調査結果で示されたように、日本の若者は諸外国に比べて自己に否定的で、将来への希望も乏しい傾向があるとされる。そうした若者が仕事をすることで様々な人に必要とされていると実感できれば、精神的にも得るものがあるかもしれない。

 悩める若者を精神的にも救済する可能性を秘めた業界として建設業界が評価されるようになれば、他業種に比べていまひとつとされる就職先としての人気が上向くのではないか――。映画を見終わって、そのようなことを考えた。

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