大災害でなくても影響は甚大


北西の路上から見下ろした擁壁上部の駐車場。4月23日に撮影(写真:日経コンストラクション)
北西の路上から見下ろした擁壁上部の駐車場。4月23日に撮影(写真:日経コンストラクション)
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 飯能市や住民の話によると、擁壁の整備は30年以上前と推定され、経年劣化が進んでいた可能性がある。しかも当時の中藤下郷地区は都市計画区域外で、建築確認が不要だった。

 市危機管理室によると、擁壁が崩壊した際に中藤下郷地区に降っていた雨はさほど激しくなかった。周囲には土砂災害警戒区域や特別警戒区域に指定された斜面もあるが、同地区が大規模な土砂災害に襲われたわけではない。

 それでも住民の日常生活には甚大な影響が及ぶ。宅地の擁壁は土木施設としては小規模でも、個人が発注する民間工事で補修するのは一般に困難だ。市や埼玉県などの補助の対象にもなっていない。それでも4月23日時点で、一部の住民の依頼を受けた造園工事会社が擁壁の補修に着手していた。

都心にも潜む土砂災害リスク

 より大規模な市街地にも土砂災害リスクは忍び寄る。3月13日、東京都が土砂災害警戒区域と特別警戒区域を港区、新宿区、文京区、大田区、練馬区の5区で指定した。昨年3月には世田谷など3区でも指定していた。

 東京の都心では、土地の所有者は法人も多く、土砂災害で被害を受けた場合に直ちに復旧工事を発注できる資金を持っている場合がある。より積極的に、平時から災害の予防に乗り出している事例もみられる。港区などで実際に進行している動きがあり、詳細は日経コンストラクションの5月8日号で報じる予定だ。

 土木中心の建設会社やコンサルタント会社はほとんど公共事業専門で、住宅中心の会社に比べるとウェブサイトでの情報発信に消極的だ。そのため、民間人から見ると近寄りがたいイメージもある。

 しかし、土木技術者の主要な業務の一つである防災対策は、民間でも必要とする場合がある。その際に民間人が必ず適切な技術者と巡り合えるような土木界であってほしいと願う。

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(関連情報:東京都の発表資料