安さを求めると加害者に?

 観終わった後にいささか考え込んでしまったのは、現実の大工やそのほかの技能労働者を経済的に苦しめているのは悪徳商人に限ったことではなく、一般市民も“加害者”に含まれるのではないかということだ。

 消費者として住宅に安さを、納税者として公共事業予算の抑制を求めることで、結果として技能者に生活苦をもたらしているのではないだろうか――。

 折しも政府は現在、新法の「建設工事従事者の安全および健康の確保の推進に関する法律」に基づく基本計画の作成を進めている。基本計画には工事従事者(技能者)の労働安全などに必要な費用を十分に確保できるように、「適正な請負代金の額、工期などの設定」という項目を盛り込む予定だ。

 請負金額や工期を設定する主体は技能者と直接契約する建設会社だが、実効性のある計画とするためには、工事の発注や関連予算計上の段階から配慮が必要になるだろう。

■建設工事従事者安全健康確保法の概要
■建設工事従事者安全健康確保法の概要
日経コンストラクションが作成
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 建設業界と無関係の一般市民や企業でも、「技能者を安くこき使うのはやめるべきだ」と言われて反対することはあるまい。しかし、そのために工事費や住宅価格の値上げを受け入れよと言われたら、果たしてどうか。

重層構造の透明化を

 建設工事は戸建て住宅の規模でさえも、元請けと下請けという重層構造がある。この業界の取材を仕事にしている筆者さえも、案件によってはこの構造の透明性や合理性にいささか疑念を抱くことがある。

 ましてや一般市民などから見ると、自分が元請けに支払ったり納税者として負担したりする費用などを増やしたところで、契約の末端にいる技能者まで行き渡らないのではという疑念を拭いきれまい。

 現在、一定以上の金額の工事の元請け会社は、元下関係の施工体系図を作成して掲示することを義務付けられている。この施工体系図にお金の流れやそれぞれの下請け会社が果たす役割の説明が付けば、重層構造の不透明感を払拭できるのではないか。現実問題としてお金の流れの開示は困難でも、各下請けの役割の明示は明日からでもできるはずだ。

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