「全員が橋を見上げて歩いていた」

老朽橋探偵 生物や地形、天候だけでなく、「人工物」にも油断はできない。10年には国土交通省北陸地方整備局北陸技術事務所が発注した橋梁点検業務の最中に、腐食した検査路を踏み抜いて作業員が転落死する事故が発生している。箱桁や中空の橋脚といった閉鎖空間内での点検では、酸欠の恐れがあるので換気が必要だ。

点検中の死亡事故の例(資料:日経コンストラクション)
点検中の死亡事故の例(資料:日経コンストラクション)
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K助手 以前、1人で現地踏査に向かい、事故に遭って亡くなった人がいると聞きました。1人では助けを呼ぶのが大変だし、事故に気付いてもらえない恐れがありますね。

老朽橋探偵 危険を察知したり、事故が起こった際に適切に対応したりするには、3人以上のチームで行動するのが望ましい。ただし、それでも不注意や知識・スキルの不足が原因となって事故は起こる。

 調査や監督、周辺状況や天候の監視といった役割分担を決め、複数人で現場に向かったはずなのに、点検に夢中になって、「ふと気付くと全員が橋を見上げて歩いていた」という経験はないだろうか。

K助手 いかにもありそうですね。

老朽橋探偵 山間部の橋などは周辺が整備されておらず、足元が非常に悪い。一歩間違えば大きな事故につながりかねず、笑い話では済まない。写真撮影に夢中になって高所から転落する事故も、しばしば起こっている。

 橋梁点検車やリフト車などの機械の操作や器具の扱いに起因するトラブルも後を絶たない。特に気になるのが「はしご」。労働安全衛生規則では、高さが2m以上の箇所で作業する際に足場を組むことなどを求めている。「ちょっと無理すれば届きそうだ」と考え、はしごで無理に高所を点検するのは無謀なだけでなく、法令違反になる恐れがある。

K助手 はしごについては、認識が甘い発注者が多そうです。

老朽橋探偵 足場や点検車を用いるとお金が掛かるので、「ちょっとだけだから、はしごで見てくれないか」などと、法令違反と認識しながら打診するケースもあると聞く。もちろん、きっぱりと断れない受注者にも問題があるが、点検中の事故を防ぐには、受注者側の取り組みだけでは限界があるのも事実だ。安全の確保に必要な費用を投じるためには、発注者側の意識向上が不可欠だ。

損傷箇所を撮影中に橋台から転落した事故の例(資料:日経コンストラクション)
損傷箇所を撮影中に橋台から転落した事故の例(資料:日経コンストラクション)
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