橋の維持・補修に関する謎を一手に扱う老朽橋探偵社には、2014年7月に義務化された道路橋の定期点検に関する相談が日々持ち込まれる。早朝からの電話対応が一段落し、老朽橋探偵と新米助手のKは、雑談をしながらコーヒーをすするタイミングに恵まれた。


K助手 先生、道路橋の定期点検は予定よりも遅れ気味のようですね。

老朽橋探偵 そうだね。国土交通省が2015年8月に発表した「道路メンテナンス年報」(暫定版)を見たかい? 年報によると、14年度の点検実施数は5万9808橋。定期点検の対象となる70万6549橋のうちの8%だった。14年度は10%を点検する計画だったから、目標を達成できなかったことになる。約48万橋を管理する市区町村の点検実施率が6%にとどまった影響が大きい。

K助手 初年度から計画未達…。本当に18年度までに完了できるのでしょうか。


橋の維持・補修にまつわる謎に挑む「老朽橋探偵」と「K助手」のコンビ。日経コンストラクション2015年4月27日号の特集「それゆけ!老朽橋探偵」を皮切りに、合計3回の特集記事に登場した(資料:日経コンストラクション)
橋の維持・補修にまつわる謎に挑む「老朽橋探偵」と「K助手」のコンビ。日経コンストラクション2015年4月27日号の特集「それゆけ!老朽橋探偵」を皮切りに、合計3回の特集記事に登場した(資料:日経コンストラクション)
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老朽橋探偵 14年度は自治体にとって試行錯誤の時期だったと言える。例えば、約1万5000橋の道路橋がある群馬県内には、職員が自ら点検を実施する計画を立てた自治体が数団体ある。ところが、実際にやってみると点検・診断が思った以上に難しいことが分かり、成果を取りまとめられない事態に陥った。その影響もあって、同県内では14年度中に全体の13%の橋を点検する予定だったが、9%にとどまったそうだ。

K助手 自分たちが管理する橋の状態を知るためにも良い取り組みだと思いますが。やはり、技術力不足は否めないですね。

老朽橋探偵 ああ。民間企業も含めて、これまで橋梁点検に縁がなかった人たちが、現場に立ち入る機会が増えている。そこで気になるのが安全管理だ。

K助手 点検の安全管理ですか?何だか意外な気がしますが。工事じゃあるまいし。

老朽橋探偵 点検は工事と違って安易に考えられているところがあるが、本来は補修工事と同様の安全管理が必要だよ。死亡事故だって起こっている。現場に潜むリスクについて、少し一緒に考えてみようじゃないか。