考え方を変えなければならない時期
――ほかの発注者にその思想が広がっていかないのはなぜでしょうか。
岩城 一郎氏(以下、岩城):ライフサイクルコストについては、月日が過ぎなければその効果を実証するすべがないからでしょう。ただし一方で、数十年で早期劣化した事例はたくさん集まっています。凍結防止剤を散布するところで基準通りの構造物を造ったら、30年で造り換えざるを得なくなったという例などです。これが、少しは説得力のある証拠になっています。
解析や実験室での促進試験の結果から、実構造物で本当に100年、200年持つかということについてはまだ十分には証明できませんが、今よりも間違いなく長持ちするということは証明できます。徐々に賛同者は増えてきていますし、少しずつ話ができる土壌、下地はできてきました。
春日 昭夫氏(以下、春日):欧州、特にドイツではライフサイクルコストを考慮して、架け替える前提で、プレストレストコンクリート(PC)床版を絶対に造りません。PCを採用すると、取り壊しが大変だからです。どんなにスパンが長い床版でも鉄筋コンクリート(RC)で造ります。床版を半分取り除きながら桁をどうやって補強するか。ちゃんとしたフィロソフィー(哲学)を持っている。
細田 暁氏:今の日本人があまり哲学を持たないだけで、日本はもともと、哲学にあふれた国だと思っています。
春日:確かに明治の前は、ものすごく少ない情報を隅から隅まで読んで、自分らで消化して実践していたのが、明治になってあふれるほどの情報を輸入しました。西洋化しようとした結果、それまでのフィロソフィーはなくなってしまったのでしょう。
岩城:早く、安く、大量に造らなければならなかった時代と同じようなやり方を今も実践しています。確実に時代は変わっており、考え方を変えなければならない時期に来ています。
※この短期連載は、「新設コンクリート革命」から一部を抜粋したものです。記事内の所属・肩書きは執筆時点のものです。
- ▼(1)良いコンクリートに不可欠な1枚の紙
- ▼(2)「バイブレータを10cm挿入」で受発注者が対話
- ▼(3)究極の非破壊品質試験「目視評価」
- ▼(4)打継ぎ部でも緻密なコンクリート、復興道路
- ▼(5)「まだ山口県のコンクリートにはかなわない」
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