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新設コンクリート革命

良いコンクリートに不可欠な1枚の紙

(1)山口県で開発された「施工状況把握チェックシート」

2017/04/18

(著)熱血ドボ研2030、(編)岩城一郎、石田哲也、細田暁、日経コンストラクション、定価:本体3,400円+税

 東日本大震災の被災地で、従来の方法にとらわれず、品質と耐久性にこだわったコンクリートを造ろうとする革命が起きています。

 革命の全貌について、大学の有識者、建設会社や道路会社の技術者など、第一線で活躍する当事者たちが書き下ろした書籍「新設コンクリート革命」が、3月20日に発行されました。

 この短期連載では、本書に掲載した内容の一部を紹介していきます。第1回は、品質確保システムの土台となる「施工状況把握チェックシート」の内容と効用について、特別に公開します。

監督行為を形骸化させないためにはどうすべきか?

図1■ 山口県で開発された施工状況把握チェックシート(東北での導入時のもの)
(資料:山口県)

 施工状況把握チェックシートは、山口県のひび割れ抑制システムにおいて開発されたA4判の1枚のシートである(図1)。

 同県では2007年のひび割れ抑制システムの運用開始に先立ち、06年にシステム運用を試行し始めた。当時は施工現場によって、段取りに大きな差があったのが現実であった。

 この状況に対して、発注者の監督員が施工状況を把握するためのチェックシートを開発し、システムの構築に関わったコンサルタントの技術者が全ての現場の打込みに立ち会う際にこのシートを試験的に使用した。

 山口県の担当者とコンサルタントの議論により、チェック項目を厳選し、A4判1枚に収めることを目標とした。膨大なノウハウが詰め込まれたコンクリート標準示方書などの規準類と、現場をつなぐ1枚のシートが開発されることとなったのである。

 「施工状況の把握」とは、監督員の行為の1つだ。ただし、把握すべき内容が監督要領などで具体的に示されているとはいえず、現場に出る監督員が少なくなる社会的趨勢の下、最も形骸化しやすい行為ともいえる。施工の主役は施工者であるが、監督員もこのシートを活用して、適切な施工がなされるための支援を行うこととなる。

施工状況把握チェックシートの効果

 山口県では、07年のシステム運用開始以降、この施工状況把握チェックシートを携えた監督員が現場で施工状況を把握している。改善すべき点があれば、監督員が指示する。チェックシートは公表されているため、施工者も着目点を共有することで、基本事項に対する意識の共有、適切な施工計画の作成や事前準備につながり、施工状況を改善する結果となった。

 効果を表す一つの事例として、山口県下関市のボックスカルバート工事(側壁と頂版の打込み)における施工状況把握の研修で見られた施工の工夫を紹介する。段取りが適切な現場は整理が行き届いているのが常であり、足場板の配置を見ると、現場が打込みのことをどれだけ計画しているかが分かる。この現場においても、足場板が適切に配置されていた(写真1)。

写真1■打込み前に足場を事前に設置している様子(写真:細田 暁)

 また、バイブレータの挿入箇所が型枠にマーキングされており、適切に準備していることが一目で分かった(写真2)。

写真2■バイブレータの挿入箇所を型枠へマーキングしている様子(写真:細田 暁)

 バイブレータで締め固めている若い作業員は、「コンクリートにバイブレータが届いてから後ろにいる“スイッチマン”がスイッチを入れてくれる。締め固めた後、引き上げるときはスイッチを切ってくれる。だから、鉄筋に当たりっこない」と自信を持って答える(写真3)。このように現場の意思が統一されることが、適切な打込みの条件といえる。

写真3■バイブレータを使う作業員の後ろに、電源を入れたり切ったりする人が付いて回る様子(写真:細田 暁)

協働的な対話につながる

 復興道路や山口県などにおける産官学の協働の取り組みにおいては、良質のコミュニケーションが基本となる。施工状況把握チェックシートを上手に活用することにより、プレーヤーの協働関係の構築につなげることが可能となる。

 図2は、施工状況把握チェックシートの効果と協働的な対話が構築されるメカニズムを図にしたものである。施工の基本事項を明確化したことにより、監督員は把握の視点が明確になり、不適切な施工に対して改善指示を出せるようになる。また、施工者は適切な施工計画を立て、適切な事前準備を行うようになる。

図2■ 施工状況把握チェックシートの効果と構築される協働的な対話の構図
(資料:細田 暁)

 そして、施工状況把握チェックシートで重要なポイントになるのが、一見「曖昧な」チェック項目があることだ。監督員、施工者、さらには関与する学識者にスキルとマインドがあれば、協働的な対話につながる。

 例えば、「コンクリート打込み作業人員に余裕を持たせているか」という項目があるが、適切な作業人員の数とは、季節などの環境条件も含む現場の条件により異なる。品質確保のために適切な数について監督員と施工者の双方が思いを巡らせること自体に、まずは意味があると考えている。

※この短期連載は、「新設コンクリート革命」から一部を抜粋したものです。第2回は4月25日(火)に掲載します。

新設コンクリート革命

東北被災地で火がついた「新設コンクリートの品質確保・高耐久化」。その方法やノウハウ、思想を専門の研究者・技術者が伝授します。

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  • (著)熱血ドボ研2030、(編)岩城一郎、石田哲也、細田暁、日経コンストラクション
  • 定価:本体3,400円+税
  • 発行日:2017年3月20日
  • 詳細・目次一覧

細田 暁・横浜国立大学大学院都市イノベーション研究院准教授 [日経コンストラクション

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