農作業体験の機会を提供

 いずれにせよ、遊水地が多様な機能を発揮するためには、適度な撹乱が継続されることが重要である。遊水地には大雨の時には川からあふれた水が流入するが、水による撹乱がもたらされるのは堤防際の狭い範囲に限定される。効果的な撹乱の継続には、人間による継続的な関わりが必要だ。

 草刈りなどの撹乱を単に治水機能の維持という目的だけから評価すると、河川管理者のコストにしかならない。しかし利活用の結果として適度な撹乱が生じるプログラムを工夫すれば、社会全体としての大きなベネフィットになり得る。麻機遊水地ではそのような「適度な撹乱として機能する利活用」の工夫が進められている。

 例えば2015年に遊水地内に造成された水田での稲作は、障がい者に農作業体験の機会を提供するとともに、植生遷移の抑制を通して治水効果を持たせ、さらに生物多様性保全に寄与している。水田や水路にはシャジクモ、ミズマツバ、ウスゲチョウジタデなどの絶滅危惧種を含む多様な植物が成育し、その種数は水田化していないヨシ原の約5倍に達した(図1)。

図1■水田の造成による植物種数の増加
図1■水田の造成による植物種数の増加
水田内で確認された種数と水田と隣接するヨシ原(未耕作地)を比較した。着色部は絶滅危惧種数を示す(資料:西廣 淳)
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 そのほか、ヨシ原の中をやや複雑に草刈りをして迷路をつくる活動、子どもと一緒に遊水地内に小さな池を掘る活動、冬季に枯れヨシを焼く火入れの試みなど、適度な撹乱を楽しいイベントとして実現する工夫が展開されている。