遊水地の代表的な三つの多機能性

 麻機遊水地は、治水、生物多様性保全、利活用の三つの面で重要な機能を持つ。治水については本来の目的そのものなので説明は不要だろう。

 生物多様性の面では、麻機遊水地はオニバス、ミズアオイ、コツブヌマハリイなど絶滅危惧植物21種が生育し、時にはコウノトリも飛来する(写真2)。これらは元来、氾濫原すなわち河川の水位が上がったときに冠水する湿地を生育・生息場所とする生物である。

写真2■麻機遊水地に飛来したコウノトリ(写真:伴野 正志氏)
写真2■麻機遊水地に飛来したコウノトリ(写真:伴野 正志氏)
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 氾濫原には、全国的に絶滅が危惧されている生物が多い。河川周辺の土地は都市や農地の開発の対象にされやすいことに加え、かつては氾濫原の生物の主要なハビタットとして機能していた水田の環境が、戦後の農業が近代化するなかで大きく変化したからである。

 利活用の面では、都市近郊に位置することもあり、バードウォッチングや散歩などのために訪れる人が多い。加えて、障がい者の自立支援を軸とした活動が特徴である。

 麻機遊水地は、心身に障がいのある人が通う特別支援学校や、てんかんや神経疾患の人が通う病院など、複数の医療・支援施設と隣接している。地域住民や企業といった多様な主体の強力な連携のもと、障がいのある人が参加あるいは主体となり、遊水地内に造成された福祉農園での農作業や、遊水地内の湛水(たんすい)面を利用した伝統漁法である「柴揚げ漁」などの様々な活動が行われている(写真3)。

写真3■遊水地内の水田での作業(写真:小野 厚氏)
写真3■遊水地内の水田での作業(写真:小野 厚氏)
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