水戦略の核にグリーンインフラ

 シンガポールは東南アジアの中心に位置する63の島から成る国で、最大の島シンガポール島は東西に42㎞、南北に23㎞で470万人が暮らす世界で最も人口密度が高い国である。

 この国の大きな課題は、水である。島内の貯水池に加えて、40%を隣国マレーシアからパイプラインを通じて確保してきたが、急騰する水の価格や政治的な課題などを解決するために、シンガポールは国を挙げて水問題の解決を実行に移してきた。

 浸透膜を活用した高度ろ過技術による下水の再生処理や、河口に可動堰をもつ貯水池の建設などに加えて、画期的なのが「ABC Water Design Guidelines」(ABC-WDG)である。

 ABC-WDGはシンガポールの公益事業庁(PUB)が中心になってまとめたシンガポール国土全体を対象とした水の戦略で、なかでも核になるのがグリーンインフラの適用である。

 ABCとは「Active」、「Beautiful」、「Clean」の頭文字で、国民の誰もが美しく、きれいで、生き生きと水と共に暮らす国にするという思いを反映している。

 このガイドラインの大きな特徴は二つある。一つ目は、国内の一定面積以上の敷地・街区・都市スケールの開発案件の全てに対して、開発のタイプや土地利用に応じて必要なグリーンインフラ適用技術を明確に示し、新規の開発敷地からの雨水の表面流出の削減に加えて、屋上から敷地内の屋外空間を活用してグリーンインフラを適用することにより、微気象の緩和、健康増進、生物多様性の向上などに寄与し得る、空間像を伴ったグリーンインフラを啓蒙している点だ。

 二つ目は、デザイン・ガイドラインに具体的なパイロット・プロジェクトがひも付いていることである(図1)。

図1■ABC-WDGで現在計画進行中のプロジェクト
図1■ABC-WDGで現在計画進行中のプロジェクト
(資料:PUB, Singapore's National Water Agency)
[画像のクリックで拡大表示]