人工物と自然環境の組み合わせ

 グリーンインフラは自然環境を重視する一方で、人工構造物の存在を否定するものではない。人の手がほとんど入っていない自然環境から純然たる人工構造物まで、非常に広範な対象を包括するのがグリーンインフラだ(図3)。

図3 ■ グリーンインフラの連続性
図3 ■ グリーンインフラの連続性
三菱UFJリサーチ&コンサルティングの資料をもとに日経コンストラクションが作成
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 下水道やコンクリート三面張りの河川のような人工構造物は、誤解を恐れずに言うと、水を流すことに特化した点で単機能かつ高効率だ。

 一方で、植栽や土壌の浸透を活用した雨水管理は、水資源の保全や流出速度の遅延などの多機能性を持つ。しかし、時間を掛けて生育しなければ十分な効果を発揮できない。そのため、両方の利点を生かして最適に組み合わせることが、グリーンインフラでは重要になる。

 防災・減災の分野では、両方の利点を生かした事例がある。東日本大震災で、防潮堤と防風林が互いに機能を発揮して、津波の威力を軽減したのは記憶に新しい。自然環境だけで大規模な災害を防ぐことは不可能で、人工構造物で自然の機能を強化する「ハイブリッド型」の需要に期待が高まる。グリーンインフラの要素技術を開発し、売り上げ増を狙う企業も出てきた。

 さらにグリーンインフラの事業としての可能性は、単なるインフラ整備の延長線上にとどまらない。九州大学大学院の島谷幸宏教授は、「グリーンインフラは自然資源を使った土地利用や国土管理、国土政策の手法でもある」と指摘する。人口減少や高齢化に伴う地方経済の停滞を救う「地方創生」の切り札になる可能性を秘めている。

 「どの地方にも自然資源は必ず残っている。地方創生における地域産業の活性化では、グリーンインフラがベースになるはずだ」(島谷教授)。

 地域産業に大きく貢献したグリーンインフラの好例としてよく紹介されるのが、兵庫県豊岡市の円山川で実施した自然再生事業だ。

 洪水対策のために河川敷を切り下げただけでなく、コウノトリの餌場となる湿地や水田を並行して整備。コウノトリが実際に野生復帰したことと相まって、そこで育てた米にブランド品として付加価値がついた。地域固有の自然資源の活用が、地元に経済波及効果をもたらした。