山口県にある錦帯橋の上流で、ダム工事が最盛期を迎えている。ハイテクからローテクまで様々な技術を積み重ね、生産性向上に取り組む。堤体工事が終わるまでに総労働力の5%に当たる作業員2500人日の省人化を目指す。

施工中の堤体の全景。継ぎ目をできるだけ設けず、コンクリートの高さをそろえて打設する拡張レヤ工法を採用する。撮影時は洪水吐きのコンジットゲートなどを施工中だった。通常は堤体の下流面に沿わせる仮設給排水管を堤体内に埋設し、高所での盛り替え作業をなくした(写真:大村 拓也)
施工中の堤体の全景。継ぎ目をできるだけ設けず、コンクリートの高さをそろえて打設する拡張レヤ工法を採用する。撮影時は洪水吐きのコンジットゲートなどを施工中だった。通常は堤体の下流面に沿わせる仮設給排水管を堤体内に埋設し、高所での盛り替え作業をなくした(写真:大村 拓也)
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 山口県岩国市で建設中の平瀬ダムは、堤高73m、堤頂長300m、堤体積34万m3の重力式コンクリートダムだ。日本三名橋の一つ「錦帯橋」が架かる錦川の40km上流に位置する多目的ダムで、洪水調節容量は2430万m3、利水容量は320万m3。同ダムが完成すると、錦川流域の洪水調節容量は現在の約2倍に向上する。

 山口県が発注して、清水建設・五洋建設・井森工業・ナルキJVが施工する。堤体のコンクリート打設は2016年2月に始まり、18年9月に打ち上がる計画だ。16年12月時点で約9万m3を打設した。

夜間の堤体打設。ケーブルクレーンで運搬したバケットからコンクリートを打設し、油圧ショベルに取り付けたバイブレーターで締め固める。ケーブルクレーンは1条しかなく、施工状況に応じて週ごとに打設の時間帯を決めている(写真:大村 拓也)
夜間の堤体打設。ケーブルクレーンで運搬したバケットからコンクリートを打設し、油圧ショベルに取り付けたバイブレーターで締め固める。ケーブルクレーンは1条しかなく、施工状況に応じて週ごとに打設の時間帯を決めている(写真:大村 拓也)
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 作業員の労働時間を抑えるため、ICT(情報通信技術)をはじめとするハイテクからローテクまで様々な技術を活用。限られた労働力で生産性の向上と品質の向上に挑んでいる。

 例えば、堤体の固練りコンクリートを締め固めるための「情報化バイバック」を現場に初めて導入した。バイバックとは、油圧ショベルの先端に直径15cmほどの太いバイブレーターを複数取り付けた装置だ。

 締め固められたかどうかは、コンクリート表面の平たん性で判断する。情報化バイバックは、運転台の上に搭載した三次元スキャナーでコンクリート表面の形状を画像認識し、締め固め完了の判断をモニターに映し出す。

情報化バイバックによる締め固めと運転台のモニター(右)。屋根の青い箱に収めた2台の三次元スキャナーで打設面の平たん性を読み取る。位置情報と組み合わせ、締め固め状況を施工記録として残せる。蓄積したデータは将来の施工の自動化にも生かす(写真:大村 拓也、資料:清水建設JV)
情報化バイバックによる締め固めと運転台のモニター(右)。屋根の青い箱に収めた2台の三次元スキャナーで打設面の平たん性を読み取る。位置情報と組み合わせ、締め固め状況を施工記録として残せる。蓄積したデータは将来の施工の自動化にも生かす(写真:大村 拓也、資料:清水建設JV)
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 「従来はオペレーターの勘に頼っていた。締め固め具合がリアルタムに把握できるようになることで、作業時間を抑えられる」と、清水建設JVの平塚毅所長は説明する。

 現場に適用するには工夫が必要だった。1カ所の締め固めに要する時間は10秒以下。ところが、三次元スキャナーで平たん性を認識するのに、当初は15秒ほどかかっていたのだ。三次元スキャナーを2台に増やすことで、認識時間を3.5秒まで短縮できたという。