土木学会の「コンクリート構造物の品質・耐久性確保マネジメント研究小委員会」(229委員会)が1年間の活動を終え、7月28日に委員会の活動をまとめた報告書を公表した。良いコンクリート構造物を造るための非常に重要な知見が盛り込まれており、委員会メンバーが実施した座談会の内容を特別に日経コンストラクションで転載する。

 座談会のメンバーは、以下の7人(五十音順)。石田哲也・東京大学大学院工学系研究科教授(聞き手)、河野広隆・京都大学大学院工学研究科教授、坂田昇・鹿島土木管理本部土木技術部長、佐藤和徳・日本大学工学部教授(元国土交通省東北地方整備局地方事業評価管理官)、田村隆弘・徳山工業高等専門学校土木建築工学科教授、細田暁・横浜国立大学大学院都市イノベーション研究院准教授、堀田昌英・東京大学大学院新領域創成科学研究科教授。

座談会の様子。5月8日に実施した(写真:横浜国立大学)
座談会の様子。5月8日に実施した(写真:横浜国立大学)
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石田:229委員会が何を目指して活動してきたのか、また今後何をすべきかについて、主に2つのことを議論したいと思います。まずは、コンクリート構造物の品質確保はそもそも何を目的に実施すべきなのか、また今後どう進めていくかを題材にしたいと思います。山口県の取り組みなどを踏まえて、田村先生と細田先生に冒頭でご発言をお願いします。

田村:山口県の取り組みの背景は、品質確保というよりまずはひび割れの問題が切実になっていたということです。きっかけは国土交通省の通達です。「ひび割れをきちんと調査しておきましょう」という通達に基づいて、発注者が構造物の品質を管理する基準に使い始めたために、施工側が驚きました。

 蓋を開けてみると、ひび割れの意味を発注者も全く分かっておらず、あるいは施工者も分かっていないのではないかという状況がありました。例えば、擁壁や砂防ダムといった無筋の構造物でも、発注者は「ひび割れが入ったら減点、補修だ」と、かなり厳しくやり始めたことがあって、施工者側も「これはたまらない」ということで私の所に相談に来るようになりました。

 山口県が面白かったのは、「じゃあなんとかしようじゃないか」と発注者が考え始めたということです。発注者と施工者それぞれから私に相談があったので、「では、一緒に考えましょう」となりました。考えていくとひび割れには原因があって、何とかなるという話まで展開していきます。そういったなかでどうしたら無害なひび割れにまで持っていけるかというように盛り上がっていきました。

 結果的にそのように持っていく仕掛け、つまりシステムができていきました。その延長線上に、「今度はひび割れにとどまらず、品質を良くしようじゃないか」という話に発展し、品質を良くするには鉄筋のかぶりをきちんと確保するとか、水周りをしっかり考えるとかいったことが必要だという話になったのです。ですので、品質確保は私もいまだに難しい話だと思っていますが、山口県では最初から「品質確保が大切」みたいな入り方はしていないということですね。

 最初から品質確保を目指していたら、「まず品質確保とは何か」から考えることになり、なかなか話が前に進まなかったと思います。

田村隆弘・徳山工業高等専門学校土木建築工学科教授/徳山高専土木建築工学科を卒業後、1979年に徳山高専に文部技官として奉職。その後、95年に長岡技術科学大学で博士号を取得。2015年には徳山高専副校長を務め、16年より国立高等専門学校機構で研究・産学連携室長を兼務。土木学会や日本コンクリート工学会で各種研究委員会委員長を担当。229委員会でも委員長を務める(写真:横浜国立大学)
田村隆弘・徳山工業高等専門学校土木建築工学科教授/徳山高専土木建築工学科を卒業後、1979年に徳山高専に文部技官として奉職。その後、95年に長岡技術科学大学で博士号を取得。2015年には徳山高専副校長を務め、16年より国立高等専門学校機構で研究・産学連携室長を兼務。土木学会や日本コンクリート工学会で各種研究委員会委員長を担当。229委員会でも委員長を務める(写真:横浜国立大学)
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