耐久性とひび割れ幅の関係について十分な情報がない

河野:例えば車について考えると、車の排気量2000ccというのは仕様です。その2000ccの車から100馬力が出ると、これは性能です。そして実際の車では105馬力出るものもあれば95馬力しか出ないものもあります。ただし、エンドユーザーにとっては品質であろうと性能であろうと一緒で、性能と品質を合わせた結局トータルの「品質」といって整理した方が分かりやすいと思います。

 昔アメリカでは、月曜日に作った車は品質が悪いから買うなというような話もありました。月曜日に作った車も火曜日に作った車も、本来持っている性能は設計図や材料が一緒であれば同じはずですね。しかし品質は明らかに違う。

 土木構造物の場合は1つしか同じものを造れないので、そういう比較ができません。なので、品質と性能が非常に分かりづらくなります。今は土木学会のコンクリート標準示方書も、鉄道の設計標準も、改訂中の道路橋示方書(7月に改訂)なども、耐久性に関しては明確に100年持たせようと、そういう性能を設定して設計しています。

 公共構造物の場合に必要なのは、とにかく設定した性能以上の性能を発揮させることです。それが品質確保だと思います。そうすればかなりの方に分かっていただけると思います。

細田:全く同感です。

石田:その時にひび割れをどう捉えるかというのは非常に難しいのではないでしょうか。有害なひび割れ、無害なひび割れとは一体何かといった議論がありますが、同じひび割れでも供用される環境によっては有害にも無害にもなり得ます。

 構造物に要求される性能に応じて決まる話で、品質の指標としてひび割れがどのようにリンクするのかは難しいポイントではないでしょうか。それが先ほどの話であった「0.2mm以上のひび割れについて記録を取るべきだ」という通達が、いつのまにか品質の指標として勘違いされてしまう事例につながるのかなと思います。

石田哲也・東京大学大学院工学系研究科教授/東京大学工学部を1994年に卒業後、同大学大学院に進み修士・博士課程を修了。その後、東京大学大学院工学系研究科にて助手、講師、准教授を経て2013年に現職。土木学会論文賞・吉田賞・出版文化賞・技術開発賞、日本コンクリート工学会論文賞、fib Awards , IABSE Prizeなどをこれまでに受賞。専門はコンクリート工学(写真:横浜国立大学)
石田哲也・東京大学大学院工学系研究科教授/東京大学工学部を1994年に卒業後、同大学大学院に進み修士・博士課程を修了。その後、東京大学大学院工学系研究科にて助手、講師、准教授を経て2013年に現職。土木学会論文賞・吉田賞・出版文化賞・技術開発賞、日本コンクリート工学会論文賞、fib Awards , IABSE Prizeなどをこれまでに受賞。専門はコンクリート工学(写真:横浜国立大学)
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河野:我々が美観を除いて、構造物に本来求めるのは耐久性です。例えば道路橋だと、100年持ってくれれば、多少ひび割れがあってもいいのです。しかし、構造物を100年持たせるために、環境条件に応じたひび割れ幅を設定できるのか、またそのひび割れ幅以下に実際の施工でコントロールできるのか、その辺りは非常に難しい問題です。

 そこで、とにかく0.2mm以上のひび割れを出ないようにしたら、ほとんどの場所は安全・安心というのが今の状況だと思います。発注者が今なぜひび割れを非常に懸念して、なくすようにといった声を掛けているかというと、耐久性とひび割れ幅の関係について十分な情報を持っていないので、ひび割れ幅をある意味でみなし規定の品質指標としているのです。だから、ひび割れには関心が高いのでしょう。

(座談会(2)へ続く)

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