一品生産における品質と性能
細田:田村先生が「いきなり品質確保というと捉えにくい」と言われた理由の一つは、品質は定量化できるものもありますが、定量化しにくいものもかなりあるということが根幹にあるような気がします。品質確保とはコンクリート構造物に期待される性能、すなわち要求性能が発揮されるために、構造物が備えるべき品質を確保することだと思います。
耐久性に関する品質確保の議論は容易ではありませんが、例えばかぶりをしっかり確保するとか、性能を発揮できる無害な範囲にひび割れを収めるというようなことでしょう。
かぶりが不足しているコンクリート構造物が全国で大量生産されており、なぜかぶりが確保できなかったかということだけでも十分議論になると思いますが、そもそもそういう実態があるので、私たちは品質確保に取り組んでいるだけです。その切り口の1つが山口県のひび割れですし、東北でチャレンジが始まった少し定量化しにくい表層品質の緻密さです。
誤解を受けるかもしれませんが、私は構造物のひび割れは品質だと考えています。美観が一番分かりやすいと思いますが、ひび割れが0.3mmを超えると美観の観点でアウトという照査をしているケースもありますが、私は構造物に発生するひび割れはとりあえず一旦品質と捉えておいて、性能と切り分ける方が整理しやすいと思っています。
東北地整で作成した「ひび割れ抑制の参考資料」は、性能という言葉をほとんど出さずに、とりあえず品質確保の一連の中の一行為として整理されたと私は認識しております。
石田:冒頭から、非常に重要な論点が出てきました。山口県では、まずはひび割れという目に見えるものをきっかけに、品質確保の取り組みが始まったというのは理解しやすく納得するところです。一方で、ひび割れと品質の関係をどのように捉えるべきなのか、という点は色々と議論があると思います。その辺りについて、河野先生からコメントをお願いします。
河野:今伺ったなかでも論点が幾つかあって、まず「品質というのは何か」という問題提起がありました。これは最初にはっきりしておきたいと思います。これまで土木学会でも、仕様(Specification)、性能(Performance)、品質(Quality)、これらはどう違うのかについてはずいぶん、議論しました。いまだにはっきりしない面もありますが、収束している内容について説明します。
性能はあくまでも構造物を造る前の段階で、設計で決定できるものを指し、例えば耐震性能や耐久性能のような使われ方をします。設計図を渡した段階で、「設計図通りに造ればその構造物が求められる性能を満たしますよ」ということです。次に品質は、設計の後に造る段階があって、その過程で求められるものです。
土木構造物の場合、なぜ品質と性能が非常に分かりづらいかというと、土木構造物が一品生産で、そこでは性能と品質が分けづらい点にあります。一品生産なので、1つの構造物を見てこれが性能でこれが品質というように区別しにくいので、議論していると分からなくなるのです。