日経BP社は3月6日、書籍「設計不具合の防ぎ方 増補改訂版」を発行しました。発注者が自ら明かした、実際に起こった200の不具合事例をまとめた類例のないマニュアルです。
増補改訂版では、日経コンストラクションに掲載したトラブル事例を新たに追加しています。
この短期連載では、本書の内容の一部を紹介。最後となる第5回は、本書に転載した日経コンストラクション2016年6月13日号の記事を抜粋して掲載します。
設計ミスが原因で工法の大幅な変更を余儀なくされたとして、大阪府が日本シビックコンサルタントに約7億5000万円の損害賠償を求めた裁判が、異例の展開をたどっている。2016年2月末、府が請求額を約86億円に増額したのだ。
「設計に瑕疵はなかった」と主張してきた日本シビックは、「いたずらに裁判を長引かせるだけの理不尽極まりない行為だ」と猛反発。親会社の日本工営も、「引き続き法的責任がないことを主張していく」と宣言し、府との溝はさらに深まった。
発注者が建設コンサルタント会社に数十億円規模の賠償を求めた例はかつてない。なぜ問題はここまでこじれたのか。少し長くなるが、事件の経緯を時系列で振り返ろう。
たて坑に滑動・転倒の恐れ
争いの舞台は、大阪府が整備を進める阪神高速大和川線のうち、常磐東ランプが本線と合流する区間だ(写真1、図1)。この区間では、シールド機の発進・到達基地となる深さ40m超のたて坑2基をニューマチックケーソン工法で沈設した後、たて坑に挟まれた延長200mを深さ40mまで掘削。トンネル躯体を構築して埋め戻す手はずだった。
日本シビックは2006年12月、府から本線シールドトンネルやたて坑などの詳細設計を約2800万円で受注。同時期に、開削区間の詳細設計を日建技術コンサルタント(大阪市)が約1950万円で受注した。
その後、たて坑の建設と開削トンネル区間の土留め・掘削工事は吉田組JVが約166億円で、開削トンネルの躯体工事は清水建設JVが約76億円で、それぞれ請け負った。
工事は順調に進んでいるはずだった。しかし、たて坑の沈設が終わり、吉田組JVが開削区間を20mほど掘り下げた時点で、たて坑の安定性が問題となった。そのまま側面を掘削し続けると、支えを失ったたて坑が背面の土圧と水圧に押されて内側に滑動・転倒する恐れが出てきたというのだ(図2の1)。