まるでブロック玩具のように組み立てる

 このように、凹凸をかみ合わせて部材を接合してしまう方法は、「嵌合(かんごう)接合」と呼ばれる。嵌合接合を利用した身近な例には、レゴに代表されるブロック玩具がある。このほか、古い寺院や神社のような伝統的木造建築物の「仕口・継ぎ手」(二つ以上の部材を継いだ接合部)も、嵌合接合の代表例だ。

木造建築物の仕口の例。仕口は二つ以上の部材を、ある角度で接合する部位を指す(資料:日経コンストラクション)
木造建築物の仕口の例。仕口は二つ以上の部材を、ある角度で接合する部位を指す(資料:日経コンストラクション)
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 鉄骨造の建物についても、近年は建設資材の再利用による環境負荷の低減、急速施工などに着目した研究や事例が見られる。しかし、建屋カバーのように巨大な構造物に適用した事例はない。そう考えると、確かに「常識破り」の工法なのだが、現場の制約条件と建造するカバーの規模を考えれば、印藤が嵌合接合に行き着いたのは必然だったともいえる。

 検討を始めたばかりのころに、印藤らが試算してみると、1号機原子炉建屋を一般的な鉄骨造のカバーで覆うには、外周の柱が22本、梁が71本、屋根トラスなどを合わせると214ものパーツが必要になると分かった。

 これらのパーツを通常の方法で接合するには、2万本ものボルトを締めなければならない。放射線量が高い1号機の周辺では1人当たりの作業時間が限られるので、5000~6000人ほどの職人を全国からかき集め、交代を繰り返しながら作業に当たらなければならないと考えられた。そんな事は、まず不可能だ。

 印藤は解決策を見出そうと、スケッチと模型を駆使して検討を進めた。当初、ノートには必要な職人の数や部材の数を計算した結果が並んでいた。その後、徐々に建屋のスケッチが増え、プロジェクトのカギを握る柱と梁の接合部の仕様が輪郭を現し始めた。

 「人の手を借りなくてもいける」。

 印藤がそう確信したのは11年3月27日のこと。冒頭の社内会議の前日である。アイデアを書き出すために使ったノートは、数日間で3冊にも上っていた。
(第2回に続く)

着想を書き留めるために清水建設生産技術本部の印藤正裕本部長が使ったノートの一部(資料:清水建設)
着想を書き留めるために清水建設生産技術本部の印藤正裕本部長が使ったノートの一部(資料:清水建設)
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柱・梁接合部のスケッチ(資料:清水建設)
柱・梁接合部のスケッチ(資料:清水建設)
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アイデア段階のスケッチだが、実際に建設した建屋カバーとほぼ同じ構成に到達している(資料:清水建設)
アイデア段階のスケッチだが、実際に建設した建屋カバーとほぼ同じ構成に到達している(資料:清水建設)
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毎週火曜日に掲載予定。タイトルは変更する可能性があります。

■連載の目次(予定)
第1回:異例ずくめの原発カバー工事が始まった
第2回:62パーツの“一夜城”
第3回:成功率100%が絶対条件
第4回:敵は放射能と「風」
第5回:「解体」は造るより難しい?
第6回:人馬一体で「針の穴」を通す
第7回:がれきに咲いた花